鷹野つぎの文学

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 【心理の翳】つぎは、島崎藤村を中心とした婦人雑誌『処女地』(大正十一年四月~大正十二年一月)へ同人として参加し、平凡な一家族の内部に土産ものの配分より起きた夫と妻と子とのあいだの心理の翳(かげ)を追究した『悲しき配分』(大正十一年十二月刊。昭和三十二年十二月刊『現代日本文学全集』筑摩書房)の一編で文壇の注目を浴びた。【主婦の文学】臼井吉見は「これは家庭の主婦が、筆を執り、身辺を観察記録したといったふうのものである」、そんなところに、「比較的早く沈黙してしまった理由があるのかもしれない」といい、また『新潮日本文学小辞典』は、「冷徹な観察と緊密で硬質的な表現をもって、人間生活と心理の陰影を彫り深く描いている」と作風を紹介している。【私小説】いずれにしても大正の一時期に、私小説の系譜の中に一つのたしかな足跡をのこした女流文学者であったといえよう(浜松市立高等学校文芸部『郷土の生んだ女流文学者鷹野つぎ研究』)。
 
【家庭】父は岸弥助(安政元年生)、母はなを(安政六年生)といい、その二女に生れた。家業は油雑貨商、兄三人、姉一人、妹三人の八人兄弟であった。