【飯尾哲爾】飯尾哲爾(敷知郡曳馬村、現当市高林町生、小学校教員)は主宰する浜松子供協会一周年記念として「土のいろ社」を結成して機関誌『土のいろ』を発刊し、民俗学方面よりの郷土研究を志した。その第一号を刊行したのは大正十三年一月であったが、発刊の辞に「吾々はどうしても郷土を忘れることは出来ません。郷土のもつ伝説や風俗の様々を時の流れにまかせて流失することは、到底私共のしのび得ることではありません。私共はこの時勢の推移にさからっても、これが蒐集保存につとめたいと思います。そして(中略)現代のそれらとの関係をも明らかにして行きたいと思います」とある。『土のいろ』は発行部数毎号約百五十部、年間三、四冊の割をもって発刊され、昭和十五年九月第十七巻第二号をもって休刊にいたるまで通巻八十三冊を刊行している。【特集研究号】特集号に「遠州俚謡」「浜松凧揚」「桜が池伝説」「遠州の凧」「浜松土俗玩具」「遠州七不思議」「遠江国古人百人一首」「民話伝説」「鏡山歌」「きつねのはなし」「遠州伝説地名の起原」「遠州の方言」「克明館蔵書目録」「遠江郷土歌集」「郷土伝説植物考」「西遠の民家」「聞書」「鴨江見世物」「遠州風物手鏡百影」「遠江に於ける屋敷神」などがある。これに協力する土のいろ会員の中道朔爾(さくじ)・松井多門・三輪桂作・県善三郎・久保田閲次・吉沢純道・渥美実などがあった。寄稿者も遠州全域にわたり、柳田国男も『土のいろ』第四巻第四号には「蟷螂考」を、楠方熊南も感想文を寄せている。飯尾哲爾は『土のいろ』の発行にあたり自ら謄写版の原紙をきり、自ら印刷製本し、これを発送したという。『土のいろ』は遠州地方では古い郷土研究雑誌であり、遠州地方の研究に欠くことのできない参考書となっている(『土のいろ』は戦後復刊され通巻一一三冊に及んでいる)。
土のいろ