[労働組合の結成]

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【労働組合 日本楽器天竜工場 浜松労働組合準備会 中部配電 浜松工機部 浜松郵便局 浜松市役所 労働争議 労働関係調整法 労働基準法 織物工場 自治会制度】
 県下で戦後初の労働組合は昭和二十年九月に結成された日本楽器天竜工場労働組合(組合員・男子三百四十名、女子百三十名)で、組合長は副工場長の高原文六であった(『静岡県労働運動史』)。しかし、浜松地方での本格的な労働組合の結成が続々と進んだのは同年暮れから翌年の春にかけてであった。これは二十年十月十一日、マッカーサーが新任の幣原首相に婦人解放、労働組合の結成奨励、学校教育の民主化、経済機構の民主化などの五大改革を口頭で要求したことがきっかけとなった。政府はこれを受けて同年十二月六日に労働組合法案を衆議院に提出、同月二十二日に公布、翌年三月一日に施行されたのである。
 浜松では共産党系の人々が中心となって浜松労働組合準備会がつくられ、事務所は北寺島の個人宅に置かれた。この会は昭和二十年十二月初旬に労働組合結成懇談会の開催を呼び掛けるビラを配り、「全浜松地方の労働者諸君! サアー労働組合を作らう!」「官僚的天下り組合は絶対反対だ!」「賃銀を値上せよ!賞与をウント出せ!」「横領物資を吐出させろ!」と呼び掛けた(『静岡県労働運動史』)。このビラにはこれらと並んで「待遇改善」「解雇絶対反対」「失業者復職」の文字も並んでいた。
 戦争中、浜松の多くの大企業は軍需工場に転換させられており、空襲で甚大な被害を被っていた。これらの工場は終戦により多くの仕事を失ったために労働者の多くは解雇され、失業者となっていた。しかし、いち早く平和産業部門に転換して生産を再開した企業も多かった。このようななかで労働組合が誕生していくが、その多くは大企業や官公庁のものであった。昭和二十年十二月、中部配電浜松電気局従業員組合が結成された。翌年の一月には名古屋鉄道局浜松工機部に浜松工機部従事員労働組合が結成され、浜松第二中学校(現浜松西高等学校)で結成大会が開かれた。初代組合長には製缶職場長の武藤忠夫、副組合長には鋳物職場助役の中村弘が選出された(『静岡県労働運動史』、『浜工労働運動史』)。また、同月には鈴木式織機労働組合が、二月には日本楽器本社、三月には遠州織機、日本形染、遠州鉄道、専売局、富士紡鷲津、日清紡浜松、四月には日通浜松、大和染工、河合楽器、内外編物などでも労働組合が結成された。中堅企業としては三月から四月にかけて須山織機、渥美鉄工所、不二化学工業などに、公務員関係では二月に浜松郵便局などに組合が出来たが、その名称は労働組合だけでなく、従業員組合、職員組合など多種にわたっていた。浜松市役所では、昭和二十一年一月に浜松市役所吏員組合結成の気運が高まり、組合設立準備会や各課の有志などにより市の助役と集団交渉して、戦犯者と非民主主義者の総退陣、事務の簡素化、現物配給の実施、下意上達機関の設置、首切絶対不履行、吏員組合の承認などの要求を出し、これを認めさせた(日本共産党静岡県西部地区委員会『旗を高く掲げて』)。
 当時の労働組合の要求の主なものは、賃金の二~三倍の即時引き上げ、工場閉鎖や企業縮小反対、団体交渉権の確立、労働協約の締結、職場の民主化などであったが、民主化の線に沿うものの多くは認められたようである。
 生活苦が続き、労働組合の結成が進んだことにより、昭和二十一年には労働争議が激化する中、GHQの指示を背景に政府は同年十月には労働者と使用者との関係を調整し、労働争議の予防と解決を目的とする労働関係調整法を施行した。また、二十二年九月一日には職場での労働条件を改善し、労働者を保護する労働基準法を施行している。労働基準法は労働者が争議で求めていた最低限の労働条件を示し、労働関係調整法は労働争議の未然防止、争議の適切な解決を目指していた労働者側にとっても、経営者側にとっても重要な役割を果たしたが、当初は労働関係調整法については労働運動を抑制するものとして反対する動きも見られた。
 昭和二十三年四月一日現在の浜松市域の労働組合の結成状況は表2-46の通りである。工業では三十七組合七千六百名余、交通業では十一組合八千五百名余、商業は六組合千百名余、公務・自由業は二十四組合四千人余、計七十八組合二万一千四百名余である。内訳を見ると、紡織ではわずか三組合百八十五名である。大手の紡績会社には労組が出来たが、おびただしい数の零細の織物工場には労組が結成されていないことが分かる。昭和二十四年五月四日付の『静岡新聞』には、大手の紡績工場ではかつて女性を縛り付けていた寮制度を自治会制度に改め、給与も男性の水準に近付ける努力をしていることが紹介されている。しかし、零細な織物工場での労組の未結成は、戦前のような劣悪な労働環境が継続し、女工哀史的な悲劇が数多く生まれている(『新編史料編五』 七社会 史料75・77)こととも関連すると考えられる。
 
表2-46 労働組合の結成状況 (昭和23年4月1日現在)
種別組合数組合員数
工業金属1415
機械器具9908981,006
化学38289171
ガス、電気、水道342436460
窯業、土石
紡織310580185
製材、木製品81,7991,0982,897
食料品1483280
印刷、製本18629115
土木建設185388
その他79011,7662,667
374,4423,2327,674
交通業118,1484188,566
農林業
水産業
商業66894151,104
公務自由業243,0701,0124,082
合計7816,3495,07721,426
出典:『浜松市勢要覧』昭和23年版より作成