昭和二十四年になると、本格的な郷土研究誌が幾つか現れる。その最初のものが竹山亥三美が発行した『遠州郷土読本』(昭和二十四年十一月三日発行)である。内田旭と渥美静一が記した「編集後記」を見ると「竹山亥三美氏が文化書房を経営されてより、郷土史料の缺乏を痛感せられ、今回郷土に関する出版を思い立たれることになり、われわれは之に参加いたしまして、編集にあずかることになりました。」とある。出版元の文化書房は、戦後板屋町に出来た書店で、店主は竹山亥三美。竹山は浜松出身で慶応大学卒。各地の旧制中学校等の教諭を歴任した後、昭和十五年、浜松市の収入役となり同十八年まで務めた。
本の目次を開くと、(内田旭)「郷土研究の手引」以下十四のタイトルが並ぶ。執筆者は、内田旭・西郷藤八・中道朔爾・平松實・塚本五郎・飯尾哲爾・渥美實・渥美静一の八人と浜松子供協会。取り上げられているテーマはすべて遠州にかかわるもので、銅鐸・絵画・植物染料・神社と仏閣・句碑・大念仏・交通史・産物・伝説・史蹟名勝天然記念物と国宝・人物などとなっている。これを見ると、遠州の郷土研究の対象となるものはすべて網羅されていると言ってもよい。冒頭の「郷土研究の手引」は、タイトル通りの郷土研究入門への手引きである。さらに、「郷土かるたを作りましよう」(飯尾哲爾)という一文と「遠江伝説かるた」(浜松子供協会作)があって、学校教育の現場への配慮もあり、郷土読本として実に行き届いた一冊となっている。
図2-74 『遠州郷土読本』