【国土総合開発法 TVA方式】
戦後の地域開発計画は昭和二十五年(一九五〇)に制定された国土総合開発法によって始まった。同法は「国土の自然的条件を考慮して、経済、社会、文化等に関する施策の総合的見地から、国土を総合的に利用し、開発し、及び保全し、並びに産業立地の適正化を図り、あわせて社会福祉の向上に資する」ことを目的として成立した。この計画は、全国総合開発計画・都府県総合開発計画・地方総合開発計画・特定地域総合開発計画の四種からなるが、全国規模での開発は高度成長を待たねばならなかった。しかし、特定地域総合開発計画は、国土総合開発法の打ち出した最も有効な計画として生かされていった。この開発方式は、地域の資源を総合的に開発するとともに、その地域の総合的な保全を図るという面開発方式、いわゆるTVA方式が採用されたのである。また、この計画は、その後の全国総合開発計画(一全総)や新全国総合開発計画(二全総)と異なり、海外資源に依存するのではなく、国内資源を開発・活用しようとする考えを前提としていた。もちろん、これは当時わが国が外貨不足であるという経済状態にあったからにほかならない。
【天竜東三河特定地域 天竜東三河特定地域総合開発計画】
これに先立ち、静岡県は昭和二十四年に天竜川総合開発懇談会を設置し、天竜川を中心にした総合利用調整を図ることにした。この計画は、(1)佐久間発電所の建設、(2)農業水利事業、(3)工業用水・上水道、(4)観光資源開発、(5)植林計画など、文字通り天竜川及びその流域の総合開発を目指した計画であった。この計画はやがて国土総合開発法の制定により、昭和二十六年に天竜東三河特定地域の指定を受け、さらに昭和二十七年の天竜東三河特定地域総合開発計画の指定として成就していった。この計画は、後のこの地方の総合的利水開発に重要な役割を果たすことになっていくのである。
この計画の概要は以下の通りである。
一、開発計画の基本方針
(1)本地域内における生産の増強と安定並びにこれにより生活水準の向上を図る。
(2)電源、農産、林産の各種資源の開発、治山・治水及び工業振興のための基礎条件の整備
(3)開発計画達成期間の目標をおおむね十カ年とする。
二、開発計画の大綱
(1)諏訪湖周辺と流入河川域における利水事業と洪水防御対策
(2)三峰川貯水池(多目的堰堤)の築造と天竜川上流部の河道改修事業と洪水防御対策
(3)天竜川下流部の改修事業
(4)天竜川河口地帯に海岸砂地植林事業を行う。
(5)国土保全事業の実施により整備せられた施設の管理並びに、洪水予報を迅速にするため必要な観測通信施設を整備・拡充する。
(6)天竜川本川佐久間堰堤、秋葉堰堤及び支川三峰川美和堰堤、高遠堰堤を利用して発電事業を行い最大出力四十六万キロワットの開発
(7)右記の諸堰堤及び豊川水系宇連堰堤を利用して農業用水の確保を図り、五万千町歩の灌漑(かんがい)排水事業と約六千町歩開墾干拓事業を行い、米石換算約六十五万石の増産を図る。
(8)八ヶ岳山麓は約三千町歩の牧野改良事業を行う。
(9)水窪川、気多川流域等で基幹林道を新設し、用材、薪炭材年間六十万石の増産を図る。
(10)西宝地区、豊橋豊川地区及び西遠地区において必要なる上水・工業用水供給施設を整備する。
(11)二級国道塩尻名古屋線、飯田浜松線、浜松静岡線の道路改善を図る。