【農家戸数】
浜松市の就業人口の推移を表3-21で見ると、戦前は第一次産業の比率が少なかったものの、戦後周辺の町村を合併することによって急激に増えていったことが分かる。また、農家戸数も急増した(表3-22)。昭和二十五年では第一次産業就業者が全体の三十七・九%も占めていた。ところが、十年後の昭和三十五年では十九・二%と大幅に減少している。それに対し第二次産業は三十・九%から四十一%へ、第三次産業は三十一・二%から三十九・八%へ、それぞれ増加している(表3-23)。わずか十年間で産業間の人口移動が起きた原因は農業内部の問題と外部の問題が考えられる。
【規模拡大 農家経営の不振】
農業内部の問題としては、戦後の農村民主化の一環として行われた農地改革によって創出された自作農の経営規模が一ヘクタール未満で、当初から自立した農家経営は無理であったということである(表3-24)。浜松では、戦後大規模な開拓が行われた。三方原台地に広がる旧陸軍飛行場、爆撃場跡が解放され、浜松開拓、三方原開拓をはじめ、多くの地区で開拓が行われた。にもかかわらず一農家当たりの経営規模は狭小であり、規模拡大には制約があった。さらに畑作物は穀類、甘藷類、豆類などが中心であったため、大量の輸入農産物(豆類、雑穀類など)との競合で農家経営は不振が続いた。従って、多くの畑作農家は、当時、支持価格政策の下で比較的安定していた稲作へ傾斜し、畑作地帯においても開田ブームを引き起こした。このことが、後に過剰米問題を引き起こす遠因になっていったのである。
【専業農家 兼業農家】
他方、農業以外の要因として工業部門の急速な発展があった。特に昭和二十年代後半から三十年代前半にかけて、オートバイや楽器工業が急速に発展し、新規学卒者をはじめとする若年労働力が工業部門へ吸収されていった。その結果、専業農家が減少し、兼業農家、中でも第二種兼業農家が増えていったのである(表3-24)。この傾向は、高度成長期になるとますます顕著になっていった。
表3-20 浜松市における農地の用途別転用状況
出典:『浜松の農業』1963より作成
注:史料は尺貫法で記載されているが、メートル法に直した。1畝を1アール(a)とした。
用途別\年度別 | 昭和32年 | 昭和33年 | 昭和34年 | 昭和35年 | 備考 | ||||
件数 | 面積(a) | 件数 | 面積(a) | 件数 | 面積(a) | 件数 | 面積(a) | ||
農業用施設 | 22 | 48 | 19 | 39 | 19 | 43 | 34 | 272 | |
農家の住宅 | 48 | 143 | 79 | 232 | 73 | 182 | 92 | 234 | |
一般住宅 | 475 | 940 | 676 | 1,733 | 798 | 2,030 | 880 | 2,024 | |
社宅及寮 | 26 | 98 | 23 | 115 | 19 | 153 | 36 | 403 | |
工場敷地 | 130 | 890 | 101 | 681 | 150 | 2,034 | 213 | 2,806 | |
学校用地 | 31 | 622 | 10 | 132 | 5 | 208 | 6 | 387 | |
鉄道軌道事業 | 3 | 26 | 1 | 5 | |||||
道路及水路 | 13 | 55 | 23 | 60 | 27 | 90 | 55 | 80 | |
その他の施設 | 46 | 427 | 33 | 96 | 64 | 662 | 126 | 2,201 | 材料置場、 倉庫、車庫等 |
計 | 794 | 3,249 | 964 | 3,088 | 1,156 | 5,407 | 1,442 | 8,407 |
注:史料は尺貫法で記載されているが、メートル法に直した。1畝を1アール(a)とした。
表3-21 戦前の産業人口比率 (単位:%)
出典:『浜松発展史』より作成
年次 | 第一次産業 (農水業) | 第二次産業 (工業) | 第三次産業 (商業) |
昭和 1年 | 4.50 | 27.5 | 28.0 |
5年 | 3.82 | 29.0 | 29.0 |
10年 | 5.15 | 30.1 | 32.6 |
15年 | 6.30 | 32.6 | 31.6 |
17年 | 6.10 | 40.0 | 27.0 |
20年 | 14.70 | 29.3 | 26.5 |
表3-22 農家戸数と農耕地面積
出典:『浜松発展史』より作成
年度別 | 農家戸数 | 耕地面積 | 田面積 | 畑面積 | 備考 |
昭和 5年 | 820戸 | 441町 | 254町 | 187町 | |
11年 | 1,445戸 | 1,230町 | 479町 | 751町 | 11年2月曳馬・富塚合併 |
17年 | 2,015戸 | 1,769町 | 888町 | 881町 | 14年7月白脇・蒲合併 |
22年 | 3,050戸 | 1,658町 | 734町 | 924町 | |
26年 | 5,320戸 | 2,757町 | 1,422町 | 1,335町 | 26年3月五島・河輪合併 |
表3-23 産業別就業人口の構成比の推移
出典:昭和35年『国勢調査』より作成
注:昭和25年、30年の数字は、昭和35年までに浜松市に合併した町村分を含む。
昭和25年 | 昭和30年 | 昭和35年 | |
第一次産業 | 37.90% | 26.20% | 19.20% |
農業 | 37.8 | 26.1 | 19.1 |
林業・狩猟業 | 0 | 0 | 0 |
漁業・水産養殖業 | 0.1 | 0.1 | 0.1 |
第二次産業 | 30.90% | 36.30% | 41.00% |
鉱業 | 0.1 | 0.2 | 0.1 |
建設業 | 4.4 | 3.6 | 4.0 |
製造業 | 26.4 | 32.5 | 36.9 |
第三次産業 | 31.20% | 37.50% | 39.80% |
卸売・小売業 | 14.0 | 16.7 | 17.4 |
金融・保険・不動産業 | 1.0 | 1.4 | 1.6 |
運輸・通信・電気・ガス・水道 | 5.5 | 5.4 | 5.2 |
サービス業 | 9.2 | 10.6 | 10.8 |
公務 | 1.4 | 3.4 | 4.8 |
分類不能の産業 | 0.1 | 0 | 0 |
就業人口合計(人) | 110,626 | 134,207 | 161,768 |
非就業人口(人) | 147,198 | 166,436 | 171,242 |
総人口(人) | 257,824 | 300,643 | 333,010 |
注:昭和25年、30年の数字は、昭和35年までに浜松市に合併した町村分を含む。
表3-24浜松市の農家の推移
出典:『1950年世界農業センサス市町村結果表』、『静岡県市町村別農業センサス累年統計書』より作成
注:例外規定とは、上記経営規模未満のもので、年間農産物総販売額が一万円以上の農家のこと。
年次 | 総世帯数 | 総農家数 | 経営耕地面積規模別農家数 | 専兼別農家数 | ||
昭和25年 | 22,026 | 3,648 | 30a未満 | 1,235 | 専業 | 1,604 |
30~50a未満 | 828 | 兼業 | 2,044 | |||
50~100a未満 | 1,258 | 第一種 | 1,088 | |||
100~200a未満 | 312 | 第二種 | 956 | |||
200a以上 | 5 | |||||
例外規定 | 10 | |||||
昭和35年 | 74,576 | 17,909 | 30a未満 | 4,376 | 専業 | 5,560 |
30~50a未満 | 3,332 | 兼業 | 12,349 | |||
50~100a未満 | 6,509 | 第一種 | 5,888 | |||
100~200a未満 | 3,624 | 第二種 | 6,461 | |||
200a以上 | 42 | |||||
例外規定 | 26 |
注:例外規定とは、上記経営規模未満のもので、年間農産物総販売額が一万円以上の農家のこと。