【「独白記―戦後回想ノート」】
平山喜好のことは、すでに第二章第九節第一項において取り上げたが、ここでは彼の詩方面での活動について見ておきたい。彼の経歴については、「独白記―戦後回想ノート」Ⅰ~Ⅲ(『浜工文学』第四十八号~第五十号)に詳しい。これによると、彼が自覚的に文学活動を始めたのは、昭和二十年九月、軍隊から復員、同年十月国鉄の浜松工場に就職して後のことであった。平山の文学活動は、『浜工文学』などの文芸誌の編集をはじめ、幅が広く実にエネルギッシュであるが、創作活動としては初めは詩が中心であり、やがて小説中心となってゆく。
【『黒い火』】
詩集『黒い火』の刊行は、昭和三十二年六月である。この年平山は三十二歳。詩集は、ほぼ新書本の大きさで、本文百二十六頁。後記に「この詩集は、昭和二十六年以降の詩作品の中から、比較的に愛着を感じている四十一篇を選んで」とある。村野四郎が序文を寄せ、岡本廣司の跋がある。村野の序に次のようにある。
彼の詩の中には、現代的なテーマが、いつも鋭角的なイメージの結晶をとげて現れているが、これは一にそうした彼の、潔癖な精神的圧力の収獲物であるように思われる。
このことは、たしかに平山君の作品に、ある種のきびしさと美しさを与えているけれども、また一面において視角と形式の定着をもたらしていることも事実のようである。
平山の長所を認めつつ、マイナス面についても触れている。岡本の跋文は、平山の精力的な詩作活動を知る上に参考になる。集中から、一編を引いておく。
なお、平山は後記に、「この詩集の出版を機会にして、これからは、小説を書くことの方に、より多くの情熱を傾けたいと思っている。」と記している。
黒い火
くらい夜にむかって
火は
炎えなくてはならぬ
しずかに
ぼくの河が
ながれているかぎり
ぼくのなかに
つめたく炎える
黒い火