『労苑』

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 『労苑』の創刊は、『浜松市民文芸』創刊の約一カ月後のことである。第一集には、「新しい時代の文化」なるタイトルの下に、岡本富郎(浜松市労働教育協議会委員長)の創刊の言葉が掲載されている。論理的で説得力のある格調高い名文で、「労働の尊重は、人間の尊重であり、人間尊重のあるところに、はじめて真実の文化の花は開く」というところに創刊の意図は集約されている。第一集のジャンルと審査員は次の通りである。
 
  評論=岡本富郎、三輪信一、渡辺忠雄
  創作=勝見次郎、気賀百合子
  随筆=山根七郎治、高橋俊雄 詩=後藤一夫、小池鈴江
  短歌=安中新平、平山喜好 俳句=内田六郎、相生垣瓜人
 
 編集委員は、鈴木健(市労政課)、高橋俊雄(社会教育課)、平山喜好(国鉄浜松工場)の三名であったが、実質的には編集の中心は平山で、第十一集からは平山一人による編集となった。『労苑』は、平成十七年『浜松市民文芸』に統合され、その長い歴史を閉じたが、この雑誌の発行が長期にわたって続けられた陰には、平山喜好の献身的な努力があった。彼は「独白記Ⅱ―戦後回想ノート」(『浜工文学』第四十九号)の中で『労苑』に触れて、「一地方都市が労働者を対象にした文芸雑誌を発行しようというのは全国的にも例がなく、文化不毛といわれてきた浜松市としては画期的な試みであったといえよう」と記している。

図3-82 『労苑』1