[『浜松百撰』]

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 浜松の月刊タウン誌『浜松百撰』が創刊されたのは、昭和三十二年十二月一日。発行人は、静岡日日新聞記者木崎肇、初代編集長は沢井政敏。市内と近郊の商店(会社)百店の全面的な支援の下に、東京銀座の共同PR誌『銀座百点』を参考にして作られたという。創刊号の「編集室から」に「皆様への文化的な〝毎月の〟贈りものです。ローカル・カラーとともに中央都市の文化の流れ、推移も敏感に反映してゆきたい」とある。
 
【「静男巷談」】
 創刊号には、浜松在住の小説家・藤枝静男が「小説の神様の休日」なる一文を寄せている。これは藤枝の生涯の師であった志賀直哉が、作家の里見弴と映画監督の小津安二郎の二人と共に、浜松を訪れたときのことを書いた随筆(藤枝は、同時期これに加筆した文章を別の雑誌にも載せている)。藤枝は第三号から「静男巷談」の連載を始めており、これは昭和三十九年十二月まで、七年間にわたって続けられた。シナリオ作家・楠田芳子が「兄・木下恵介の思い出」を寄せたのは第二号。このほか、同誌には武者小路実篤・清水みのる・松尾邦之助・菅沼五十一など、浜松と縁ある多くの文化人の文章や記事が掲載された。毎月一日、出来上がった本が各会員店に配られたが、創刊当時、業者に頼むことをせず、スタッフがリヤカーを引いて行った。会員店主やその従業員とのコミュニケーションを重んじたためという。
 
【安池澄江】
 今は全国各地にタウン誌があるが、『浜松百撰』のように昭和三十年代の創刊で、今も続いているものは数えるほどで、浜松という地方都市にあって当誌の健闘は特筆に値する。記事としては、浜松の人物や行事、文化財に関するものなどが参考になる。同誌は、昭和六十年にNTT主催で行われた第一回NTT全国タウン誌大賞フェスティバルにおいてタウン誌大賞を受賞した。また同誌は、平成十九年十一月、創刊五十周年を迎え(六百号)、浜松文芸館において特別展「浜松百撰五十年の歴史」を開催した。創刊号からの表紙絵すべてを展示するなど充実した内容であった。編集長は、初代沢井政敏(昭和三十二年~)、二代山田明(同三十五年~)、三代安池澄江(同四十三年~)と変わり、現在は第四代安池真美(平成二十年~)である。