[御手洗清の伝説集]

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【御手洗清 『静岡県伝説めぐり』第一集】
 戦前、歌川小雨のペンネームで童話を書き、また郷土の伝説や童話を集めて出版するなど、郷土伝説にかかわる旺盛な執筆活動を見せていた御手洗清(昭和十九年の『土の偉人・金原明善伝』から本名)が、『静岡県伝説めぐり』第一集を出版したのは昭和二十五年(一九五〇)一月のことである。これが、彼の戦後の執筆活動の第一歩である。これはB6判、本文二百十頁。遠江・駿河・伊豆の三部に分けられ、計四十三話が収められている。飯尾哲爾が序を寄せており、「興味中心の物語の形式を以つて書かれているので、一度この書を手にするならば、不知不識の間に伝説のみ(・)力(・)に引ずられて、何時か郷土伝説に対する関心を深めて行くに相違ない。それがやがて郷土愛の心を養う素因ともなるのではなかろうか。」と述べ、本書の意義を高く評価している。御手洗自身は、「巻末に添えて」の中に、彼の伝説観を次のように明確に述べている。
 
  勿論伝説は之を科学的に見る要はない。伝説は伝説として、その儘受入れる可きで、科学的に真偽を指摘したり、排撃したりするは無用のことである。又其の原因や根拠考證をたしかめようとするのは、特殊の研究家に任すべきであつて、郷土に親しまうとするに依る伝説は、そのまゝ善意に受入るべきであろう。
 

図3-87 『静岡県伝説めぐり』

 
【『伝説の浜名湖』 『静岡県伝説めぐり』第二集】
 こうして、戦後の御手洗の郷土伝説にかかわる旺盛な執筆活動が始められた。昭和二十八年には、郷土随筆『伝説の浜名湖』を出版する。B6判、本文百九十四頁。表紙絵は鈴木三朝の筆で、雲中供養仏が一体描かれ瀟洒(しょうしゃ)な装丁である。幾編かの随筆も含まれるが、大半は郷土の伝説である。伝説は「家康伝説」・「伝説の浜名湖」などのタイトルの下に、幾話かずつがまとめられている。書名は、タイトルの一つ「伝説の浜名湖」から取られたものであろう。『静岡県伝説めぐり』第二集が出版されたのは昭和三十一年一月のことである。B6判、二百五十頁。内容は、遠江・駿河・伊豆の三部に分けられ、計五十五話が収められている。「あとがき」に次のようにある。
 
  此れは、「静岡県伝説めぐり」が、すでに絶版となつて、再版の要望がありますが、それよりも、新らしく書き下したものをと考えて、前二書に入れないものを集めて、一冊としたのが本書であります。
 
 御手洗は、戦前から農協の前身関係の団体の仕事に携わってきたが、昭和三十年、静岡県農協中央会浜松支所長を退職する。その後も自治会役員、農業委員等を歴任し、大日本報徳社の機関誌『大地』の編集をも長らく手掛けた。それらの業務の傍らの精力的な執筆活動が、昭和六十年に亡くなる直前まで続けられることとなる。