【『浜松発展史』】
浜松市役所企画室の編集による『浜松発展史』の刊行は、昭和二十九年三月のことである。これに先立つ昭和二十六年十二月、天竜東三河地域は国土総合開発法上の特定地域に指定されている。当書の刊行はこのことと深くかかわっている。
浜松市は、指定を機に総合的な都市地方計画を策定し、商工業の強力な発展と周辺地方経済の振興を図ることとなる。その際、科学的都市政策は都市の発展的認識を前提とするとの観点から、都市発展史の編さんが必要不可欠とされたものである。序説―「浜松発展段階史」の方法と特色―の中に次の一節がある。
都市の基本条件の生成と展開を中心としてその発展過程に於ける段階性を把握した発展段階史の如きは余り見られないのである。
この様な都市の歴史では、都市の政策と経営に対し、実践的出発点乃至指針としての歴史的認識を示すことは出来ない。我々の求める都市発達史は都市の現実分析と把握並に政策、経営の展開に関し積極的貢献を与える都市発展史―都市発展段階史である。
内容は、大きく第一編「浜松発展段階史」と第二編「浜松市発展の基本考察」に分かれている。後者は、浜松市の産業面における現状分析である。書名に示されているとおり、本書の中心を成すのは第一編第二章の「浜松発展段階史」で、全体の約五割を占める。浜松の発展が、次の八段階に分けて解説されている。
宿駅、城下町時代
地方小商業都市及び織物工業揺藍(籃)時代
地方商業都市及び織物工業生成時代
近代的商工都市成立時代(織物工業都市成立時代)
工業飛躍時代(工商都市時代第一期)
工業躍進時代(工商都市時代第二期)
戦時下転換及び工業軍事化時代(工商都市時代第三期)
復興及び工業多角化時代
同書の特徴は、編さんの目的に沿って産業面中心の発展史となっている点である。従って、広く文化全般を含むものではない。時代も明治以後が中心である。このため、読み物としての面白みに欠けるが、産業の様々な分野における豊富なデータが収載されており、資料集的な意味で利用価値は高いと思われる。
なお、昭和三十年五月には『続浜松発展史』が刊行された。これは「昭和二七年以後の浜松市」というもので、市町村合併や産業の現況などが記されている。