あとがき

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 浜松市史の編さん事業では、先に『史料編』全六巻が昭和三十八年までに、『浜松市史』一~三(通史編)全三巻が同五十五年までに刊行されている。このたびの刊行内容は『新編史料編』全六巻(明治元年~平成十六年)と通史編全二巻(昭和二十年八月~平成十六年)である。平成八年度に編さん準備の段階を経て、同二十一年度までに『新編史料編』全六巻の刊行が終了している。今回の『浜松市史』は先行の通史に続くものとして、本書が第四巻である。
 今、この市史を刊行する意味はどこにあるのか。空襲と艦砲射撃を被った廃墟の中から、浜松市域が蘇(よみがえ)り、幾たびかの経済不況や社会不安を浜松市民はいかに凌(しの)いできたのか。その市民のエネルギーはどのような生成発展を経てきたのか。阪神・淡路大震災に続いて東日本大震災、とりわけ津波という天災に、原子力発電の機能の崩壊後の人災が加わって、無辜(むこ)の国民が悲惨な生活を強いられている。これは福島の地のみならず、日本全国、いや世界中に衝撃を与えた歴史的現実である。
 この状況下で我々が為(な)すべきこととは、先人が果たしてきた諸分野のエネルギーのありようを風化させないこと、それであろう。そのためには記録を残すことに尽きる。例えば三権分立下の諸分野諸階層における公的記録や議事録はもとより、親族・友人知己の私的記憶や文書、口碑を公的記録に昇華させること。それらを風化させないために石碑以上に紙碑の建立という記録公刊の事業がある。忘却・風化は歴史に対する背信行為という指弾がある。これから免れることができるのは、文書・記録を作成し保管し閲覧に供するという公共図書館の使命を永続させることである。
 もとよりかくいう紙碑の建立は単独でできるものではなく、市民各位の度量、歴代市長と市議会議員各位の同意と援助、河合九平・土屋勲両教育長及び編さん事業に係る教育委員会・市長部局の事務局員の御配慮によるものであることを記し、謝意を表するものである。とりわけ戦中・戦後の社会的混乱期に家蔵の史料を維持温存してきた所蔵者に敬意を捧げ、貴重な写真提供と掲載許可をくださった個人・団体・機関等の各位に対して御礼を申し上げたい。
 また日頃、史料探索に尽力して頂いた旧浜松市域二十八箇所の公民館エリアから選出された、浜松市史編さん調査協力員の皆様、ならびに歴代浜松市博物館長と学芸員諸氏には度々の御高配にあずかったこと、そして浜松市立中央図書館の歴代図書館長と郷土資料室・参考図書室・市史編さん室の館員諸氏には日常業務に加えて御無理な願いを聞き届けて頂いたことをここに記して、感謝の意を表する次第である。
 末筆ではあるが記しておきたいことがある。それは予定通り『新編史料編』全六巻の刊行を果たし、ここに通史編第四巻を刊行するに当たって、平成八年以来の市史編さん事業が進行する途上に、平成二十年までの間、浜松市史編さん事業に御尽力頂いた大野木吉兵衛氏、村井一夫氏、田辺寛司氏が急逝されたことであり、追福を修するものである。
    平成二十四年三月            浜松市史編さん執筆委員会委員長  岩 崎 鐵 志