[国際交流の試み]

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 浜松仏教界の戦後の復興は、昭和三十四年四月七日付の『静岡新聞』で報ぜられたように、四月六日セイロン・インド・中国・マラヤ・ラオスの国々の代表者十四人からなる国際仏教使節団が鴨江寺に参集、このことに象徴されよう。これは「釈尊降誕二千五百年」を祝い、仏教を通じて世界平和を祈念するものであった。
 
【鴨江寺】
・鴨江寺
 鴨江寺本堂での平和祈願祭(昭和三十四年四月六日)では般若経が誦経され、曹洞宗大厳寺住職木全大孝師、インドのアナウンドコウサリヤナ大僧正の挨拶に続いて、浜松信愛高校生による「釈尊降誕二千五百年」の合唱があった。聴濤館での歓迎レセプションを経て、浜松市公会堂で執行された式典では、児童代表や仏教関係者による献香、献花、潅仏が行われ、山根七郎治弁護士の講演とインド・朝鮮・沖縄・インドネシア・タイなど、各国の民族舞踊が披露された。国際使節団一行は浜松に一泊し、次の訪問地である静岡に向かった。
 鴨江寺は昭和二十年六月十八日の空襲で灰燼(かいじん)に帰した。建部快雲住職の下で同二十二年には本堂が再建されて以後、さらなる整備復興事業が着手された。同三十八年九月、国際仏教徒会館の新築工事(完成は同三十九年四月)、十二月には本堂増築工事が開始されている。これに続くものとして、工費三千万円の仏舎利塔の建設が計画されたのである。
 昭和三十九年二月二十日付の『静岡新聞』には、建部住職のもとにセイロンからの仏舎利が届けられることになったことが報じられている。これは建部住職が仏教を通じての世界各国との友好、文化交流の進展を祈願するもので、昭和三十八年六月、全国の宗教関係の大学長・教授・日本仏教賛仰会代表を会員にした国際仏教文化交流協会をつくり、インド・ビルマ・タイ・セイロン・カンボジア・ラオス・ベトナムなどの仏教団体に、仏舎利寄贈願いを申し入れていた。仏舎利こそ世界共通の信仰心の象徴という信念からである。
 
【『佛敎究』 国際仏教徒協会】
 その始めにセイロンのアショカ仏教協会からアショカ王創立のアヌラダ寺院仏舎利が送られた。これは前年三十八年十二月、右協会のインド仏跡巡拝団が同国を訪れた際に、木村秀雄巡拝団長(龍谷大学教授)に手渡されており、建部住職への伝達式が昭和三十九年二月十七日に執行されたのである。
 昭和四十五年十月五日付の巻頭言(前高野山大学学長中野義照)を持つ『佛敎究』の創刊号は、国際仏教徒協会を主宰する鴨江寺住職建部快雲によって刊行された(巻頭言全文は『新編史料編六』四宗教 史料6に所収)。戦後の交際関係回復の必然として、この公刊が意図するところは、戦前既に着手されていた碩学の業績を賛仰し、パーリ語の原典研究に基づく原始仏教の研究を復興し継承するところに存する。また、建部快雲師の仏教研究に対する歴史的洞察と実現を可能にする知力・財力・組織力が特筆されている。
 昭和五十三年十月七日には、仏教徒の立場から世界平和を祈念する世界仏教徒大会が東京に続いて鴨江寺でも開かれた。このことを翌十月八日付の『静岡新聞』が報じている。来日したインド・チベット・ビルマなどの僧侶を鴨江寺に招き、十一日まで記念法要とシンポジウムを開いている。テーマは①世界仏教の現状、②仏教のよりよき理解をめざして、である。

図2-28 『佛敎究』創刊号の表紙と裏表紙

【龍泉寺 井上義衍 禅修行】
・龍泉寺
 昭和四十八年十一月二十四日付の『静岡新聞』には、半田町の曹洞宗龍泉寺の井上哲玄住職のもとに、先の老師井上義衍を慕って、禅の修行に励むアメリカ合衆国の青年二人が滞在していたと記されている。井上義衍老師指導の夭々会(昭和二十三年秋結成)の会長水野欣三郎らは、そのうちの日本語に堪能な二人の青年を同門のよしみで、浜松市民会館での講演「アメリカの青年禅を語る」に講師として招いた。講演では自分の体験を通じて得た禅修行の意義を語ったという。
 これより以前、井上義衍老師は昭和四十五年八月(七十七歳)、ニューヨーク禅センターで座禅の指導者として招かれていたので、そこでこのアメリカ合衆国の青年二人と知己となっていたのである。
 なおまた、井上義衍老師(昭和五十六年三月二日遷化、八十八歳)の遺稿集『迷いと悟り』(平成十一年四月、第四版)所収の年譜によれば、昭和四十六年十一月(七十八歳)には再びアメリカ合衆国へ、同五十三年十月(八十五歳)にはフランスに赴いている。
 
【龍秀院】
・龍秀院
 昭和四十六年以来、有玉北町の曹洞宗龍秀院伊藤智雄住職が主宰する座禅会が、昭和五十二年には六周年を迎えたことを昭和五十二年五月三十日付の『静岡新聞』は報じている。しかも、この座禅会が記念の企画として、アメリカ合衆国の大学の座禅会と交流するに至ったという。
 この龍秀院座禅会には毎週日曜日早朝と毎月第一土曜日の夜、五十人余の人々が参禅している。この記念の企画というのはアメリカ合衆国で座禅修行をしている人々に、座蒲(ざふ)(座禅用の座布団)を送ろうというものである。伊藤智雄住職と同門の平野克史師(島田市瑞雲寺住職)が龍秀院座禅会で講話をしたのを契機に、その紹介でワシントン大学ウエブ教授(東洋学)主催の座禅会宛に、三十個を送るというのである。