[積極的な工場誘致と工場の団地化]

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【工場誘致 工場誘致条例】
 東洋の奇跡と言われたわが国の高度成長が工業中心の産業発展によって実現したのと同様に、浜松市も繊維・オートバイ・楽器といった工業部門の急激な成長によって発展した。浜松市は工業振興を市政上重要な課題と位置付け、既存工業の育成と工場誘致を推し進めることにした。政府の工業の地方分散政策と相まって、浜松市は昭和三十五年浜松市工場設置奨励に関する条例(以下、工場誘致条例)を制定した。この工場誘致条例では、投下固定資産額一億円以上、従業員三百人以上の新設、増設工場とし、比較的規模の大きい工場を対象とした。奨励措置としては固定資産税額の範囲内で三年間奨励金を交付するというものであった。また、昭和三十五年十二月に浜松市開発公社を設立し、工業用地の確保や公共用地の取得などを行うことにした。工業用水は三方原用水を利用することにし、三方原用水事業を促進することにした。
 
【近藤紡績所】
 『広報はままつ』昭和三十八年六月五日号によると昭和三十八年六月現在で、工場誘致条例の適用を受けた工場は四工場、申請中が六工場、その他計画中を含めると二十工場に上り(表2―24)、投下固定資本の総額は百六十億円、従業員数は約七千人になった。新設工場として最も注目されたのは名古屋市に本社を持つ近藤紡績所の誘致であった。新工場は敷地三十四万平方メートル、投下資本額五十億円、従業員数三千五百人という大規模なものであった。
 他方、中小工場の新設・増設は昭和三十四年から同三十七年末までの四年間で百五十工場に上り、投下固定資本額も四十三億円、従業員数も一万人を数えた。工業の急速な拡大期にあって、市内では工場の建設ラッシュが起きたのである。
 政府の打ち出した中小企業の近代化政策は、設備の近代化、業種別の近代化・高度化の三本柱によって大企業との生産性の格差を是正しようとするものであった。浜松市は県の協力を得て中小工場の団地化を積極的に推し進めることになった。当時、市内の中小鉄工所は約五百社あり、市の中央部や住宅地に点在していたため産業公害の原因にもなっていた。そこで、中小企業の体質強化、設備の近代化、さらには産業公害の防止を兼ねて工場の団地化を推進していった。
 
【小沢渡団地】
 昭和三十年代後半には小沢渡団地と浜松鉄工団地が建設された。小沢渡団地は鈴木自動車工業の下請企業の工場団地として造成され、昭和三十一年に結成された鈴木自動車工業系列下の鈴自協力協同組合の多くが参加した。昭和三十六年六月に団地協同組合を設立し、同三十八年に二十の企業によって集団化を行った。小沢渡団地は市西南部の小沢渡町にあり、団地面積は八万六千平方メートル、設備投資額八億八千万円、従業員数は千三百人となった。その後三社が企業合同をしたため十七社(昭和四十五年当時)になった。生産品はほとんどが鈴木自動車工業関連の自動車部品であった(表2―25参照)。
 
【浜松鉄工団地】
 他方、浜松鉄工団地は市南部の寺脇・三島町にまたがる地域十四万八千平方メートルに建設され、三十九の工場が進出した(表2―26参照)。昭和三十六年九月に浜松鉄工団地協同組合の創立総会が開催され、定款、事業計画などが承認され正式に発足した。その後用地の買収から着工に至るまで紆余(うよ)曲折があったものの、昭和三十八年八月に埋め立て工事が完了し、九月から随時移転が開始され、昭和四十一年に完成した(詳しくは『遠州機械金属工業発展史』を参照のこと)。
 
表2-24 工場誘致条例の適用を受けた主な工場
(昭和38年6月現在)
会社名
場所
新設・増設
投下固定資本
備考
東棉紡績
宮竹町
増設
1億5千万円
適用を受けた工場
住倉工業
中島町
増設
2億7千万円
適用を受けた工場
東京セロフアン
早出町
増設
1億6千万円
適用を受けた工場
日本楽器
中沢町
青屋町
増設
12億円
適用を受けた工場
本田技研
葵町
増設
17億円
申請中の工場
遠州製作
篠原町
増設
7億1千万円
申請中の工場
東海染工
中田町
新設
6億6千万円
申請中の工場
中部ガス
西塚町
増設
1億6千万円
申請中の工場
扶桑軽合金
萩町
新設
2億6千万円
申請中の工場
遠州帆布
中郡町
増設
4億3千万円
申請中の工場
近藤紡績所
中田町
天王町
新設
50億円
計画中
日本楽器
西山町
計画中
住倉工業
新貝町
計画中
磐城セメント
鶴見町
計画中
出典:『広報はままつ』昭和38年6月5日号より作成

 
表2-25 小沢渡団地協同組合員一覧
企業名
従業員数
  (人)
製造品目
(株)鈴木鉄工所
281
オートバイ、自動車部品製造
(株)杉本鉄工所
28

(株)増田鉄工所
61
(株)吉元鉄工所
78
(株)水谷鉄工所
103
(有)戸塚鉄工所
27
鈴井精機(株)37
丸智工研(株)223
(名)酒井製作所
53
松井工業(株)87
(有)松和塗装工業所
53
オートバイ、自動車部品金属塗装
中部トリカ(株)33
オートバイ、自動車電装部品
東海電装(株)5
三恵(株)41
オートバイ、自動車合成樹脂成形加工
宝和工業(株)63
オートバイ、自動車幌、座席製造
(株)小沢渡ケンマ
50
オートバイ、自動車バフ研磨
(株)湖南工業
62
オートバイ分解組立梱包
出典:『遠州機械金属工業発展史』より作成