[警職法・安保闘争と労働条件改善への取り組み]

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【遠州地方春闘共闘会議 遠労 浜松地区メーデー】
 昭和三十年代から四十年代、遠労傘下の機械や楽器、私鉄、化学、運輸、百貨店などの私企業や、国鉄、郵便局、専売公社等の官公労が、毎年、遠州地方春闘共闘会議に結集し、大幅賃上げを掲げ、ストライキ戦術も含めた活発な運動が展開された。また、この共闘会議の要は県評参加の労組や中立系の労組から構成された遠労(遠州地方労働組合会議)であったが、浜松地区メーデーの取り組みでも中心となっていた。このメーデーには昭和三十一年に全労傘下の全繊同盟が、三十三年には電機労連傘下の日本楽器労組が参加し、企業や組合の枠を越えた浜松地区の労働者の連帯感が高められていった。
 昭和三十三年に取り組まれた警察官職務執行法(警職法)改悪反対闘争のような人権を守る闘いには県評、中立労連、全労等の労組が職場大会を開くだけでなく、十月に元城駅前広場で約三千人の労組員や市民が警職法反対遠州地方住民総決起大会を開いた。メーデーを除くと、大規模な屋外集会や提灯デモを含めた市内デモは浜松地区で初めてであった。十一月、同法案は廃案となった。
 
【安保改定反対闘争】
 この政党・労組の組織的な連帯行動の成功体験が翌年から昭和三十五年に本格化した安保改定反対の統一行動に生かされ、五百万人を動員する民衆運動になった。浜松地区でも総決起大会が数次にわたって元城広場で開かれ、市内では提灯デモが行われた。また、東京の抗議集会へ浜松からバス数台を連ねて参加した。
 
【春闘 賃上げ】
 この安保闘争は春闘の取り組みと合わせて取り組まれ、浜松地区では労組結成件数が増加した(図2―44)。安保闘争が最高潮に達した昭和三十五年には前年の約三倍の十組合、翌年には十二組合が結成された。安保闘争で退陣に追い込まれた岸内閣と代わった池田内閣は、発足直後の昭和三十五年八月に十二・四%の賃金増額という高い人事院勧告を直ちに承認し、賃金政策を抑制から賃上げ誘導に転換させ、十二月には今後十年間で所得を倍増させるという国民所得倍増計画を発表した。高度経済成長期で、人手不足という時代の下、春闘という賃上げ方式を編み出した労働界は表2―44のように昭和四十年代には毎年数千円から一万円ほどの昇給を実現させていった。表2―44の主要企業の中でも遠州鉄道、河合連合、東京セロフアン紙はたびたびストライキを実施し、賃上げを勝ち取っていった。全日通や全松菱もストを行っている。また、この高度経済成長期は、浜松地区では多くの楽器メーカーやオートバイメーカーが日本楽器製造、河合楽器製作所、ヤマハ発動機といった巨大メーカーに統合されていく時期でもあった。昭和三十年には、東洋ピアノ、タイガー楽器、三和楽器、三十二年には浜松楽器、三十四年には日響楽器、三十六年にはライラック号で有名な丸正自動車製造が倒産危機にさらされ、労働争議を起こしている。また、浜松社会保険病院でも昭和三十五年から三十七年にかけて賃上げを要求して時限ストを何度か敢行している。
 
【定年延長】
 高度経済成長期、企業は労働力不足に悩み、打開策の一つとして、それまで五十五歳であった定年の延長が模索されていた。この年齢は働き盛りであり、技術を持っている人材を産業界にとどめておきたかった。また、労働者の方でも、定年後の職探しをする人が多かった。そこで、定年延長は労使双方の協議課題となってきていた。このような中、遠州鉄道では昭和三十七年度から五十六歳定年制を採用した(『新編史料編六』 七社会 史料56)。なお、同社の定年が五十七歳となったのは昭和五十二年からである(『遠州鉄道四十年史』)。
 
【労働時間短縮 週休二日】
 また、労働時間短縮の要望は、高度経済成長期に労組から出されていたが、経営側としては労働力不足の状況から合意しにくい課題であった。日本楽器労働組合は昭和三十八年二月に週四十時間・週休二日を目指す労働協約改定要求書を会社側に提出していた(日本楽器労働組合『組合のあゆみ 15周年記念』)。この後、昭和三十九年一月から土曜日が半休となった。そして、労使が時短委員会をつくり、協議の結果、第一・三・五土曜日を休日(ただし、出勤土曜日は午後五時まで就業)としたのは昭和四十二年からであった(『新編史料編六』 七社会 史料59)。労働時間短縮は労働者にとっては大きな魅力であり、企業イメージも向上させていた。

図2-44 浜松地区(浜松市・浜名郡)の労組結成数の推移

表2-44 春闘の賃金の要求額と妥結額(遠労加盟の8社) (単位:円)

金額
労組名
昭和
 41年
42年
43年
44年
45年
46年
47年
鈴木自動車工業
要求額
4,400
 +α
5,500
 +α
6,430
 +α
-
12,000
12,000
12,400
 +α
妥結額
3,300
3,830
+350
5,500
7,050
8,700
 +α
9,800
9,900
 +α
遠州鉄道
要求額
8,000
8,000
10,000
-
15,000
15,000
18,000
妥結額
3,500
4,300
5000
6,500
8,750
9,700
10,200
遠州製作
要求額
4,200
5,000
7,046
-
11,083
13,100
15,200
妥結額
2,904
4,000
5,746
7,540
9,360
 +α
10,176
10,081
住倉工業
要求額
6,500
7220

-
-
15,000
15,000
15,000
妥結額
3,025
4,000
-
6,298
10,100
8,000
 +α
8,032
+540
東京セロフアン紙
要求額
7,300
9,500
11,701
-
15,670
 +α
18,970
15,180
 +α
妥結額
3,480
4,250
5,780
7,355
10,132
 +69
10,006
9,064
全日通
要求額
-
-
10,176
-
12,920
15,700
17,000
妥結額
-
-
5,400
6,700
8,950
9,700
10,200
全松菱
要求額
6,045
9,747
7,890
-
14,652
13,610
15,242
 +α
妥結額
3,850
4,570
5,010
6,500
+300
10,150
 +α
8,700
9,500
 +α
河合連合
要求額
7,000
7,000
10,000
-
12,000
14,889
 +α
18,828
 +α
妥結額
3,100
3,600
5,000
6,500
8,100
9,000
9,200
遠州地方平均
妥結額
2,730
3,468
4,339
5,734
8,144
8,564
8,812
静岡県平均
妥結額
2,912
3,696
4,596
5,946
8,272
8.977
9,499
出典:『遠労のあゆみ』より作成
注:「-」はデータなし。