【方言研究 寺田泰政 『遠州方言のアクセント』】
本書の扱う昭和三十四年以降の遠州地方での方言研究の状況はどのようなものであったであろうか。復刊された『土のいろ』に掲載されたレポートや論文、また、遠州地方の研究者の手による遠州方言に関わる研究書を調べてみると山口幸洋の業績が際立っているが、ここでは浜松市在住で、浜松市立高校の国語教諭であった寺田泰政の著書『遠州方言のアクセント』(昭和四十五年十月、美哉堂書店刊)を取り上げておきたい。この書の特徴は、寺田の学問上の師であった金田一春彦が序文の中で「オーソドックスな遠州方言の学者といったら彼をおいてほかにない」「かれは本当に信頼できる学者」と述べている通り、極めてオーソドックスで厳密な学問的姿勢で貫かれていることである。また著者の「まえがき」によれば、この本は遠州方言のアクセントについて述べたものであるが、それにとどまらず、それを通じて日本語のアクセントを論じ、その成立や研究方法などを明らかにするという側面をも持っており、極めて専門性の高い著書である。しかしながら、「アクセントと国語教育」「アクセントとわたし」の章が設けられているところからもうかがわれるように、専門性は高いが読者に少しでも親しみやすい本とし、身近な問題として捉えてもらおうとする配慮がうかがわれる一冊となっている。寺田はこの後、遠州国学の研究に力を注ぎ『賀茂真淵』(昭和五十四年一月、浜松史蹟調査顕彰会刊)を刊行するなど多くの業績を残した。
図2-68 『遠州方言のアクセント』