『遠州偉人伝』

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 御手洗が昭和三十年代初期に始めたのは郷土の偉人伝の執筆である。その最初は宮本甚七の伝記で、『遠州新聞』に昭和三十二年十月から連載を始めた。この連載は長期にわたり、これが後に、『遠州偉人伝』全三巻として浜松民報社から刊行された。各巻の発行年次(第一巻 昭和三十七年七月、第二巻 昭和三十八年十月、第三巻 昭和四十年十月)によって、この仕事への着手から完成までには数年を要したことが推測される。第一巻の「あとがき」に「本書の偉人の伝記は、曽つて遠州新聞(浜松民報の前身)に連載したものを、今回集めたものが大半ですが、しかしこの出版に当っては、多分の加筆と修正をいたしました。」とあるが、第三巻については六編中の五編は書き下ろしである。
 本書執筆の方針は「あとがき」に詳しい。家康や真淵のような遠い過去の偉人を対象とせず、最近の人のみを取り上げたとし、「最近の時代に、しかも我々の身近にあって、今日の発展を築いた功労のある人達の、その事蹟と生涯を書いて収めたものです。」と述べている。三巻とも、本文は大体四百六十頁前後で、取り上げられている人物全二十四名のうち、第二巻の金原明善(三百十七頁)と第三巻の西川熊三郎(二百五十二頁)に多くの頁を割いていることが注目される。全編会話文を交えフィクションを含むが、郷土の先人の姿を親しく読者に伝えようとする熱意の伝わってくる読み物となっている。
 この後、御手洗は昭和六十年七月(享年八十四)に亡くなるまで、郷土史・伝説・民話の研究を続け旺盛な執筆活動を展開し四十冊以上の著作を刊行した。

図2-72 『遠州偉人伝』第一巻