[都市景観の育成]

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【都市景観 都市景観育成懇話会】
 戦後の日本において都市景観の育成に関する政府の動きは遅く、いわゆる景観緑三法(景観法、景観法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律、都市緑地保全法等の一部を改正する法律)が全面施行されたのは平成十七年六月一日であった。これに対し、浜松市の都市景観育成への動きは極めて早く、昭和五十七年(一九八二)十一月に浜松市都市景観育成懇話会が設置された。この会は都市景観の先進地の視察や意見交換を重ねて、同五十九年三月に「浜松市都市景観育成について」と題する提言をまとめて栗原市長に提出した。提言では、まず「都市景観は次代に引き継ぐべき市民の共有財産である」との基本認識を示し、市民と行政が一体となってまちづくりに取り組む必要性を強調し、中でも行政が先駆けとなることが大切だと指摘した。基本方向である〝浜松らしさ〟を創出するに当たっては次の七点を挙げた。
  ①浜松を取り巻く自然環境との調和を図る。②緑を育成、保全する。③建物のデザイン、都市空間の連続性に配慮する。④水に親しむ施設を取り入れる。⑤道路、公園などに愛称をつけるなど親しみやすく、使いやすいよう工夫する。⑥日常生活の中で都市景観を維持、増進し、環境を管理するための市民組織の育成を図る。⑦歴史的建造物などの古いものを守り、調和のとれた新しい街並みや空間を創出し、育てる。
このほか、行政側に景観育成条例の制定やデザイン委員会の設置などを要望した。
 
【コミュニティ道路】
 こうした中、市は浜松科学館の進入路となる市道を初めてコミュニティ道路として整備することを決め、同館の開館に合わせて開通させた。これは車道をジクザグにして車両のスピードを抑え、歩行者が安全に、また快適に通行できるように配慮した道路で、車道より広い幅の歩道には多くの樹木を植え、科学館の前庭はサイエンスパークとして、都市景観に配慮したものとなった。
 
【浜松市都市景観条例】
 栗原市長は昭和二十年代には市の建築課の技師として浜松市立図書館や東小学校、曳馬中学校などの設計を担当し、その優れたデザインは関係方面から高い評価を得ていた。また、昭和五十四年の市長就任後は、都田南・滝沢小学校(同五十七年)など学校建築のデザインをこれまでとは変え、地域の特性に合わせた特色あるデザインにするなど、都市景観の専門家でもあった。念願の浜松市都市景観条例が制定されたのは昭和六十二年三月、同四月一日から施行された。この条例は十一章、五十四条からなるもので、県下初、全国でも九番目のものであった。目的としては、自然や歴史的環境と調和した個性的で優れた都市景観をつくり、守り、育て、健康で文化的な市民生活の向上を目指したものであった。具体的な例としては①都市景観形成地区の指定 ②大規模建築物等の新築等の届出 ③都市景観重要建造物の指定 ④市民の森、保存樹木、保存樹林の指定 ⑤公共施設・事業所の緑化 ⑥まちづくり協議会の認定 ⑦都市景観協定の締結 ⑧優れた都市景観の建築物などの表彰などを定めていた。
 
【緑の都市賞】
 都市景観条例の制定から約半年、昭和六十二年十月に浜松市は緑豊かな都市づくりを目指して都市緑化と都市景観の向上に大きな成果を上げた団体に贈られる緑の都市賞で最高位の内閣総理大臣賞を受賞した。これは市民と行政が手を取り合った総合的な緑化活動が評価されたものである。これより少し前には城北小学校が学校花壇の出来栄えを競うフラワー・ブラボー・コンクールで最高賞の自治大臣賞に選ばれるなど、各方面で緑化活動が盛んになっていった。
 
【大規模建築物届け出制度】
 都市景観条例に基づく大規模建築物の届け出制度は昭和六十三年度からスタートした。これは建物の高さ二十メートル以上、または延べ床面積が五千平方メートル以上(商業地域では三千平方メートル以上)の建物の新築等は届け出ることになり、①道路からゆとりを持った配置計画か、②デザインや植栽に十分配慮しているか、③外壁は原色を避けているか、④屋上工作物は極力目立たないような位置にあるか、⑤袖看板を設置しないよう配慮しているか、などをチェックし、問題があれば指導するようになった。初年度は七十件の届け出があった。
 
【市民の森】
 浜松市都市景観審議会が昭和六十三年五月三十一日に開かれ、都市景観条例に定められた市民の森の第一号に富塚小薮地区の森と高林・住吉地区の三方原台地の斜面緑地の二つを市民の森として指定することを決めた。指定に同意した地権者には一平方メートル当たり年額四十円が支給された。この市民の森が都市景観条例に盛り込まれたのは市街地の緑地が急速に失われていることが昭和五十三年と同六十一年の航空写真の比較によって分かったからである。その後、市民の森の指定が相次いで行われるようになった。
 
【都市景観形成地区】
 同じく都市景観条例にある都市景観形成地区として平成元年に指定されたのは浜松地域テクノポリス都田開発区の工業ゾーンと中心商店街のモール街、中央柳通り、千歳通りであった。都田開発区の基本目標は「自然に囲まれた快適な環境の創造」などで、モール街は歩行者優先道路、中央柳通りは歩行者と車の共存するコミュニティ道路整備、千歳通りは音と光の演出による快適な横丁文化の発信空間をそれぞれ整備の目標としている。以後、中心部では都市景観形成地区が多くなり、美しい街並みが出来ていった。
 
【サンクンガーデン アクアモール】
 市が浜松駅前広場周辺整備事業の一環として駅北口に建設していたサンクンガーデン(地表面から掘り下げて造成した広場や庭園)の開通式が昭和六十三年九月九日に行われた。このサンクンガーデンは駅北口の地下広場(バスターミナルへの昇降口)と遠鉄百貨店、市が第三セクターで建設するフォルテとを結ぶ吹き抜けの地下広場で、駅の西に広がる商業ゾーンヘの通路ともなっていた。地下から上る階段部分には十分な植栽が施され、階段を登り切ると緑の美しいギャラリーモールが設置され、照明が組み込まれていたため、夜間の景観も美しかった。また、ガーデンの東側地上部分を南北に横切る形で、駅に通じる幅七メートルの歩行者用高架道路が設けられた。このサンクンガーデンは昭和六十三年度の静岡県都市景観賞の最優秀賞に選ばれた。受賞理由には、「半地下から地上部へかけて立体的に都市景観をとらえるダイナミックな空間構成が素晴らしく、全国的に見ても大変ユニークである。」とあった。なお、この年の優秀賞には前年の六月に完成したアクアモールが選ばれた。このアクアモールは浜松ショッピングプラザ(イトーヨーカ堂浜松店)の西側に広がる平均幅員十六メートルの歩行者専用道で、せせらぎ、植栽、水時計のモニュメント等を配置し、水と遊ぶ、ゆったり歩けるなど今まで浜松にはなかったもので市民、特に子供たちに親しまれた。

図3-7 サンクンガーデン

【都市景観賞】
 浜松市都市景観条例には都市景観賞の表彰制度が盛り込まれていたが、その第一回の都市景観賞が平成元年二月二十八日に決まった。都市景観賞には四十四件の応募があり、大賞は浜松プレスタワー(昭和六十年六月完成)が選ばれた。選定理由には、①公開空地をたっぷりと取っている、②駅前のランドマークとして役立っている、③デザインが明快でシンプル ④浜松のまちづくりをリードしようとする意欲があるなどが挙げられた。その他九件の都市景観賞に選ばれたのは自動車部品工場のイオ・インダストリー社、遠州栄光教会、佐鳴湖パークタウン、佐鳴湖ホテル鳥善などであった。この都市景観賞の表彰は平成十八年度まで続き、市民の都市景観意識の向上に大きな役割を果たした。