[低成長時代と地域間格差の拡大]

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【ドルショック オイルショック 低成長時代】
 昭和二十六年から同四十七年までの二十二年間に、わが国の国内総生産(国内総支出)は年平均九・二%の成長を続け、GDPも七倍に拡大した。まさに「東洋の奇跡」であった。しかし、昭和四十六年のドルショックと同四十八年のオイルショックは、それまで続いた高度成長を終焉(えん)させた。オイルショックの翌年(昭和四十九年)には、戦後初めてマイナス成長(マイナス〇・六%)になった。しかし、一時的な不況からの脱却も速やかで、翌年の昭和五十年には経済成長率(国内総支出)は二・九%に回復し、それ以降三~五%の成長率を維持した(表3―3参照)。ただし、成長率は高度成長期の二分の一の水準であったため、この時期(昭和五十年~同六十年)は低成長時代と呼ばれた。同時に、地域経済は一時的に大きく後退した。図3―25において静岡県の県民所得の変化を見ると(浜松市レベルの統計がないため県レベルのデータで代用する)、中央との時間的なずれはあるものの、昭和五十年を境に県内純生産、県民所得、個人消費支出ともに対前年伸び率は大幅に後退したことが分かる。
 
表3-3 各需要項目の対前年伸び率(実質) (単位:%)
項目
昭和48年
49年
50年
51年
52年
53年
54年
55年
56年
57年
58年
59年
60年
民間最終消費支出
9.1
-0.1
4.5
3.1
4.1
5.4
6.5
1.1
1.6
4、4
3.4
2.7
3.4
政府最終消費支出
5.3
3.2
7.8
4.5
4.1
5.1
4.3
3.3
4.8
2.0
3.0
2.7
1.7
国内総固定資本形成
12.3
-5.9
-6.2
3,6
3.4
6,5
7.6
-1.0
2.3
-0.3
-2.2
5.7
6,6
純輸出
-61.5
20.0
28.5
20.2
26.2
-50.1
-46.9
77.7
179.1
69.2
94.8
39.9
36.5
国内総支出
7.6
-0.6
2.9
4.2
4.7
4.9
5.5
3.6
3.6
3.2
2.7
4.3
5.0
出典:経済企画庁経済研究所編『国民経済計算年報』平成3年版より作成
注:純輸出は、輸出一輸入

 

図3-25 県民所得の伸び率の推移(対前年比)

【加工組立工業 輸出主導型成長】
 しかし成長率が大きく後退したにもかかわらず三~五%の成長率を維持できたのはなぜか。表3―3を見ると個人消費や設備投資(国内総固定資本形成)といった内需が低迷しているのに対して、輸出が拡大し続けたことが分かる。個人消費の低迷は、物価上昇を差し引いた実質賃金の伸び率が一~二%程度に落ち込んだためである(表3―4参照)。また、高度成長期の消費拡大をリードしてきた耐久消費財市場が新規需要から更新需要に変化したことも消費低迷の原因となった。投資の低迷は減量経営の徹底化による設備投資の抑制と産業構造の転換によってもたらされた。つまり高度成長をリードしてきた素材産業(石油化学、鉄鋼、セメント、パルプなど)が後退し、それに代わって加工組立工業(輸送用機械、電気機械、精密機械など)が主導産業になっていった。こうした内需の冷え込みに対して、日本経済は外需に依存する輸出主導型成長(図3―26)へ転換していった。その主役は加工組立工業であった。
 
表3-4 製造業における生産性と賃金の増加率(各5年間平均) (単位:%)
昭和45年~50年
昭和50年~55年
昭和55年~60年
労働生産性
5.1%
9.2%
6.9%
名目賃金
18.0%
8.3%
4.6%
消費者物価
11.5%
6.5%
2.8%
実質賃金
5.8%
1.7%
1.8%
出典:経済企画庁経済研究所編『国民経済計算年報』各年版より作成

 

図3-26 輸出主導型成長

【低成長期】
 表3―5において、低成長期のわが国の地域の産業構造がどのように変化したかを見ることにしよう。繊維や石油化学といった素材型産業が後退するのに対して、電気機械や輸送機械といった加工型産業が大きな割合を占めるようになったことが分かる。地域的に見ると、もともと加工型産業の比重が高い関東や東海地域は発展し、素材型産業への依存度の高かった北海道などは地盤沈下していった。このことは表3―6の一人当たりの県民所得水準の推移からも裏付けられる。もともと加工組立工業の集積度の高かった静岡県は一人当たりの県民所得の順位を十四位(昭和五十年度)から七位(昭和六十年度)に大幅に上げている。これに対し、比較的素材型産業が集積していた広島、福岡などはその順位を下げているのである。
 低成長期になると日本経済はその成長率を鈍化させたものの、地域によっては成長する地域と後退する地域に分かれたのである。昭和五十年代中頃以降、浜松地域は輸送機械工業でもたらされた繁栄によって成長した地域となった。
 
表3-5 地域の産業構造 (単位:%)
地域
区分
昭和45年
昭和60年
北海道素材型
40.3
34.6
加工型
9.6
11.4
消費関連型
35.3
41.6
その他
14.8
12.4
関東素材型
30.6
27.9
加工型
47.7
48.6
消費関連型
9.8
9.4
その他
11.9
14.1
東海素材型
38.9
26.7
加工型
43.7
52.4
消費関連型
9.1
10.5
その他
8.3
10.4
全国素材型
39.5
30.7
加工型
39
44.6
消費関連型
12.1
13.8
その他
9.4
10.9
出典:各年版『工業統計』製造業出荷額より作成
注:素材型…繊維、紙パルプ、石油化学、石炭製品.窯業・土石、鉄鋼、非鉄金属
 加工型…非鉄金属金属製品、一般機械、電気機械、輸送機械、精密機械
 消費関連型…食料品・たばこ、衣料品、家具、皮革
 その他…木材・木製品、ゴム製品、プラスチック、出版・印刷、その他
注:地域分類北海道:北海道、関東:埼玉、千葉、東京、神奈川、東海:静岡、岐阜、愛知、三重

 
表3-6 一人当たりの県民所得水準の推移
昭和50年度
 実額 
(千円)
 格差 
 (%)
昭和60年度
 実額 
(千円)
 格差 
 (%)
1
東京都
1,586
100.0
1
東京都
3,214
100.0
2
大阪府
1,320
83.2
2
大阪府
2,509
78.1
3
神奈川県
1,242
78.3
3
神奈川県
2,422
75.4
4
広島県
1,204
75.9
4
愛知県
2,415
75.1
5
愛知県
1,169
73.7
5
滋賀県
2,235
69.5
6
兵庫県
1,160
73.1
6
京都府
2,199
68.4
7
京都府
1,148
72.4
7
静岡県
2,143
66.7
8
福岡県
1,123
70.8
7
埼玉県
2,143
66.7
9
千葉県
1,102
69.5
9
兵庫県
2,142
66.6
10
富山県
1,101
69.4
10
広島県
2,138
66.5
10
滋賀県
1,096
69.1
11
千葉県
2,135
66.4
12
石川県
1,094
69.0
12
茨城県
2,103
65.4
13
埼玉県
1,087
68.5
13
栃木県
2,098
65.3
14
静岡県
1,079
68.0
14
山梨県
2,069
64.4
出典:経済企画庁経済研究所編『県民経済計算年報』より作成
注:格差は東京を100とした場合の各県との差である。