ピアノを主力とする浜松地域の楽器産業は、世界一の楽器産地として成長・発展してきた。日本楽器製造を頂点にして河合楽器製作所がそれに続き、この二社が大手メーカーとして君臨してきた。ピアノは、この二社で約八十五%のシェアを占め、この後にアトラスピアノなどの中小メーカーと下請企業が、この産業の裾野を形成してきた。昭和五十年代から六十年代にかけての生産動向を表3―15で見ると、ピアノやオルガンといった伝統楽器は逓減傾向にあり、特にピアノは同五十五年をピークに、それ以降生産高が減少していったことが分かる。昭和五十年代中頃になると国内需要の冷え込みと円高によって陰りを見せ始め、楽器産業の後退は構造化し始めた。特に、中小の楽器メーカーや下請企業は受注が減り、さらに、親メーカーからのコストダウン要請が強まっていった。また、中小楽器メーカーは韓国からの安いピアノの輸入によって打撃を受けることになった。昭和五十七年、小規模楽器メーカーであるトニカ楽器が倒産した。同社は「フリンゲル」・「シュラーゲル」のブランド名で縦型ピアノを製造販売していたが、楽器業界の販売不振で資金繰りが悪化し、倒産に追い込まれた。また、同六十年鍵盤ハーモニカのピアニカで知られる中堅楽器メーカー・東海楽器製造も事実上倒産した。同社は昭和二十三年、ハーモニカメーカーとして設立。その後、エレキギターやチェンバロに加えて教育用楽器ピアニカを製造した。しかし、ギターの販売不振からピアノ製造に移ったものの内需不振や円高が重なり低迷を続けてきた。さらに、日本楽器製造、河合楽器製作所に次ぐピアノメーカーであったアトラスピアノ製造も、昭和六十一年事実上倒産した。同社は昭和三十年の創業で、グランドピアノやチェンバロの製造を行っていた。しかし、昭和五十五年をピークとして、それ以降はピアノ市場の成熟と電子楽器の急成長によりジリ貧状態が続き、負債総額約五十億円を抱えて倒産した。同六十一年九月、中堅ピアノメーカーである大成ピアノ製造も、主な取引先の一つであったピアノ販売店・東京ピアノの倒産が引き金になって自己破産に追い込まれた。同社は国内販売の不振に対応して輸出比率を二十%まで高めたものの、円高と韓国ピアノの攻勢で不振に拍車がかかり事実上倒産に至った。高度成長期に乱立した楽器メーカーも、昭和五十年代から六十年代にかけて消えていく企業が増加した。
表3-15 遠州の楽器生産高の推移
ピアノ | 電気・電 子・ピアノ | オルガン | 電子オル ガン | 電子キー ボード | キーボード シンセサイザー | ミニキー ボード | 管楽器 | クラシック ギター | 電気 ギター | |
昭和48年 | 台 308,437 | 台 | 台 324,877 | 台 196,299 | 台 | 台 | 台 | 本 144,342 | 本 499,889 | 本 49,548 |
49年 | 338,869 | 291,734 | 206,422 | 151,365 | 340,799 | 29,331 | ||||
50年 | 318,423 | 228,077 | 208,912 | 135,023 | 184,823 | 13,733 | ||||
51年 | 332,291 | 219,997 | 233,642 | 131,521 | 275,698 | 21,765 | ||||
52年 | 356,586 | 196,172 | 236,608 | 132,690 | 287,074 | 47,551 | ||||
53年 | 366,916 | 128,523 | 266,380 | 145,075 | 208,029 | 59,267 | ||||
54年 | 376,413 | 83,107 | 270,869 | 160,637 | 218,861 | 72,930 | ||||
55年 | 394,147 | 87,643 | 292,640 | 173,638 | 196,745 | 47,150 | ||||
56年 | 361,128 | 26,953 | 69,608 | 291,298 | 195,933 | 175,291 | 71,118 | |||
57年 | 327,394 | 25,685 | 44,233 | 233,486 | 196,650 | 102,435 | 80,101 | |||
58年 | 328,589 | 38,293 | 39,686 | 197,061 | 147,177 | 177,301 | 171,951 | 94,689 | ||
59年 | 299,122 | 19,150 | 24,537 | 226,508 | 217,464 | 188,089 | 320,954 | 103,145 | ||
60年 | 287,528 | 59,894 | 16,010 | 182,588 | 378,846 | 185,766 | 127,182 | 79,384 | ||
61年 | 283,655 | 57,872 | 12,131 | 151,812 | 651,737 | 230,605 | 80,850 | 116,118 | ||
62年 | 275,981 | 101,214 | 9,488 | 157,143 | 946,401 | 216,375 | 104,291 | 127,913 | ||
63年 | 282,428 | 148,580 | 140,208 | 797,732 | 84,206 | 3,112,001 | 234,082 | 119,986 | 106,449 | |
平成元年 | 268,947 | 160,453 | 123,362 | 739,013 | 44,787 | 2,307,592 | 259,875 | 116,587 | 88,441 |
注:オルガンは昭和63年より調査中止。