【日本楽器製造 LSI ヤマハ株式会社】
他方、構造不況下にあっても日本楽器製造と河合楽器製作所の二大メーカーは、その主力商品を電気・電子ピアノ、電子オルガン、電子キーボード、電気ギターなどの電気・電子楽器に移行させると同時に、事業の多角化を進めていった。日本楽器は電子ピアノ、電子オルガンなどの電子楽器部門に加え、ステレオなどのオーディオ部門、住宅部材・音響設備、ゴルフ、スキー、テニス、アーチェリーなどのスポーツ用品やスポーツウエアの製造・販売を行い、多角化を進めていった。さらに、昭和五十年代後半になると半導体関連材料の特殊合金、検査測定機器、コンピュータ関連機器、LSIなど電子金属や電子機器部門を強化していった。昭和五十八年五月、世界一の伸銅メーカー・米国オーリン社と業務提携を結び、半導体用接続子の素材である銅合金の販売を開始した。また、同五十九年には、千葉市に本社のあるパーソナル・コンピュータのソード社と提携しOA機器分野へ進出するとともに、鹿児島県にあるLSI工場(昭和五十一年設立)の生産能力を倍増し半導体の販売に本格的に乗り出した。このような電子機器分野への進出と創業百周年を迎えるのを期に日本楽器製造は、昭和六十二年十月、社名をヤマハ株式会社へ変更した。また、河合楽器も、昭和五十七年日本IBMと特約店契約を結び、IBMのオフコン販売拠点「カワイシステムセンター」をオープンさせ、コンピュータの販売に乗り出した。
【鈴木楽器製作所】
中堅楽器メーカーの鈴木楽器製作所(昭和二十九年創立)は、同社の主力商品である大正琴やメロディオン(いずれも昭和五十七年の国内シェアは約七十%)に加え、昭和五十六年に先端技術を駆使したオムニコードの製造・販売に乗り出した。オムニコードはメロディーを取り除き、リズムと伴奏をワンタッチで自動演奏する伴奏楽器で、米国で人気を呼び、輸出の拡大が図られた。
【ローランド】
電子楽器メーカーとして有名なローランドは昭和五十年に伊左地町に浜松エース工芸(株)を設立。このエース工芸(株)は同五十二年にローランド楽器と改称した。同社はもともと大阪で創業された株式会社ローランドのグループ企業の一つであった。ローランド楽器はコンピュータやデジタル技術を音楽に生かすところに特徴があり、同五十七年には電子楽器「ピアノプラス」を大ヒットさせた。以後、電子楽器分野では常に先端を走り、国内初の電子鍵盤楽器・シンセサイザーを開発、さらにマイコン内蔵のエレクトロニック・ピアノなど、次々に新製品を開発していった。なお、ローランド楽器は昭和六十一年ローランド(株)に合併、さらに平成十七年本社を浜松に移転した。
大手楽器メーカーが、その主力商品を伝統楽器から電子楽器へシフトさせると、楽器市場も電子楽器が中心になっていった。従って、資本力の弱い中小の楽器メーカーは市場に参入できず、脱落するメーカーが増えていった。昭和五十年代から六十年代は、戦後乱立した中小楽器メーカーが淘汰(とうた)された時代でもあった。