昭和四十年代後半から昭和の終わり頃にかけて、左記のような静岡県関係の文学碑めぐりないし文学散歩の類の本が出版されている。
・『遠州文学散歩』(菅沼五十一著 昭和四十七年十一月 青少年文化(演劇)センター)
・フィールドワーク『静岡の文学』(静岡県出版文化会 昭和五十一年十一月 静岡教育出版社)
・『静岡県の文学散歩』 作家と名作の里めぐり(岡田英雄著 昭和五十二年三月 静岡新聞社)
・定本『東海文学探歩』 駿河・遠江篇(南信一著 昭和五十五年五月 静岡谷島屋)
・『静岡県の文学碑』(岡田英雄著 昭和六十年一月 静岡谷島屋)
これらの中で、菅沼五十一による『遠州文学散歩』は、最も早い時期のもので、内容的にも浜松と関係が深く、また、筆者は浜松の著名な文化人の一人でもあるのでここで取り上げておく。詩人としての菅沼については第二章において記述済みである。
当書はB6判、百八十頁。目次を見ると、まず「序文」とあるが実際には載せられていない。「カマイタチ 井上靖 詩集〈北国〉」以下六十四項目が並べられていて最後に「あとがき」とある。その「あとがき」によれば、本書は昭和三十四年から三年間、『浜松百撰』に掲載した文章を中心にしてまとめられている。取り上げられているのは、大部分が遠州と関わりのある近・現代の文学者と文学作品であるが、『十六夜日記』とか『万葉集』などの古典も対象となっている。また、「旅篭遊廓」とか「北高校の門」、「砂丘」など、特定の作品や作家を取り上げるのではなく随筆風にまとめられた文章もある。どれも評論文的な堅さがなく、かといって通俗に流れず叙情味のある親しみやすい文章である。郷土の文学への入門書と言うにふさわしい。同書は平成二年、浜名湖出版から復刻増補版が刊行されている。
図3-55 『遠州文学散歩』(カバー)
【文学碑】
次に、当地方の文学碑関係の事項として二つのことを取り上げておく。その一つは、浜名湖周辺の景勝地を自転車で巡るための浜名湖周遊自転車道が作られたことである。事業は五十三年度から始められ、弁天島から三ヶ日まで全長四十八キロメートル、幅員三メートル、同五十七年度末で進捗率は五十六%となった。昭和五十七年九月から静岡県西部振興センターは自転車道沿いに近世以降の文人十四人の、浜名湖をうたった歌碑または句碑を十四基建設、同十二月に完成した。十四人の名前は次の通りである。
加藤雪膓 竹村広陰 鷹野つぎ 賀茂真淵 原田浜人 北原白秋 石塚龍麿
河合象子 佐佐木信綱 香川景樹 里村紹巴 富安風生 田辺友三郎 久米正雄
このため同自転車道は別名浜名湖周遊文芸自転車道と呼ばれている。この文学碑の紹介と自転車道の利用促進のため、同センターは昭和五十八年三月に『浜名湖周遊文芸自転車道 文学碑』の小冊子を刊行した。
もう一つは、昭和六十二年から六十三年にかけての、浜松湖東高校の生徒たちによる浜松周辺の文学碑調査である。調査結果は次の三冊にまとめられている。
・『文学碑探訪』(昭和六十二年九月) ・『続文学碑探訪』(昭和六十三年二月)
・『続々郷土の句碑』(昭和六十三年十一月)
いずれも、同校国語科の西原勲教諭の熱心な指導によるものであるが、碑文・作者・建立者・建立の時期・所在地および周囲の環境・土地と作者・作品との関係がきめ細かく調査されており、貴重な郷土資料となっている。