【平野美術館】
元浜町に、財団法人平野美術館が開館したのは、平成元年五月十三日のことである。美術館を建てたのは、丸八製材所・丸八不動産の社長であった平野憲である。その父親の醇一は素芸(そうん)と号し自らも書画をたしなむ人であった。開館に当たって作られた図録(『館蔵品選集一』)に、憲の自由詩風の言葉が載せられている。その冒頭部分を引用しておく。
下街の美術館は/さりげなく観てさりげなく去るもの/下街の美術館は/出稼ぎ息子を待ちわびるおふくろのぬくもり/下街の美術館には/高価な美術品など及びもないが/魂をゆすぶる何かがある
(以下略)
同美術館の目指すところがこの数行の言葉に端的に示されている。収蔵品は一流であるが、それらを秘蔵するのではなく、あえて下街の美術館と称し一般の人々に開放しようとする姿勢は貴重である。開館後、同館では、館蔵品の展示(年四回の展示替え)のほか企画展を開催している。
なお、注目すべきこととして、同館による『アート浜松』(創刊号は『アート』)というB6判の情報誌の発行がある。同誌は、市内の様々な美術関係の情報を提供し、また美術関係者による興味深い文章を掲載するなど、美術愛好家にとって便利で魅力的な雑誌であったが、創刊満十二年の平成二十二年三月、第50号をもって休刊となった。