【神谷昌志】
遠州地方に在住し、少しでも郷土史に関心を持つ人であれば、郷土史家神谷昌志の名前を知らない人はまずいないのではなかろうか。その旺盛な執筆活動や講演活動の様子は、まさに超人的である。平成二十三年六月十九日付の『中日新聞』の「おはよう」欄に郷土史研究家として次のように紹介されている。
郷土の歴史研究に携わり半世紀以上。傘寿を過ぎた現在も郷土研究誌の編集や講演など第一線で活躍し、著書は約八十冊、撮りためた写真はフィルムも含めて約五万枚に上るが、(以下略)
八十冊とある著作の中には、共著も含まれるが、驚くべき数である。平成十年に刊行された『写真集 浜松今昔100景』の巻末には主な著書として次の十冊が挙げられている。
・『浜松市誌』 ・『引佐郡細江町史』 ・『遠州産業文化史』 ・『遠江古蹟図絵』
・『遠州の古寺』 ・『遠州の社寺霊場』 ・『天竜川と秋葉街道』 ・『遠州の史話と伝説』
・『浜松歴史年表』 ・『開運ご利益ガイド―遠州88番』
その後の著書としては、『廣澤山普済寺六百年史』(曹洞宗廣澤山普済寺、平成二十年刊)・『写真集 懐かしの浜松』(羽衣出版、平成二十四年刊)がある。これらのうち、どれを代表的な著作と見るか、人によって異なると思われるが、神谷自身は「父と娘、語らう。」という息女との対談(『浜松百撰』平成十四年六月号)の人物紹介のところで、一番思い入れのある著作として『遠江古蹟図絵』(明文出版社、平成三年一月刊)を挙げている。神谷はこの本の「あとがき」に、今回書いた解説文の量は底本の原文の長さの二倍以上に達しているが、それをいかにレイアウトするかが、本書の利用価値を少なからず左右することになるのだが、そこは息のあった山下伊八郎さんが私の息づかいまで見てとり実に見事な体裁に仕上げてくれたと記している。この本を著すに当たって全て現地を踏査し墨書絵画の複写は自分で撮影し数百枚に上る古写真の収集複写にも長い歳月をかけたと記している。
【『東海展望』】
神谷の郷土史研究は、古代から近現代まで政治・経済・産業・文化などあらゆる分野にわたっていて、その守備範囲の広いことに感心させられる。神谷のこのエネルギッシュな活動を支えているのは、浜松で発行されていた総合雑誌『東海展望』記者としての長年にわたる経験と実績であろう。同誌には神谷の執筆による寺社や古跡に関わる数多くの郷土史関係の記事が掲載され多くの読者を喜ばせた。第二章で触れたように、神谷が同誌を離れたのは昭和六十年四月頃と推定されるが、著作の発行年月日を見ると著書の出版がその頃から増えていることが分かる。それまでに収集してあった膨大な資料を駆使しての著作活動が開始されたものであろう。神谷の業績としては、以上見てきたような多数の著作があるが、このほか様々な委員や講師を歴任し浜松を中心に地域社会に大きく貢献している。
以上の功績が認められ、神谷は浜松市教育文化奨励賞(昭和六十二年度)と地方出版文化功労賞(昭和六十三年)を受賞している。
なお、浜松史蹟調査顕彰会から毎年一回刊行されている郷土誌『遠江』は、創刊以来一貫して神谷の手によって編集されている。