新聞社が社会に対して持つ主な役割は、日々の情報を新聞という形で読者に提供することであるのは言うまでもないが、その他の重要な活動として出版活動がある。静岡県の場合、地方文化の向上のために、また、地方の文化に刺激を与えるという意味で充実した出版活動を行っているのは静岡新聞社である。同紙の四十年史、五十年史によってその出版の様子を見てみたい。
【静岡新聞社 『ふるさと百話』】
静岡新聞社から、初めて『静岡年鑑』昭和44年版が発行されたのは昭和四十四年九月のことである。一冊三百円という低価格に加えて「一冊で静岡県のすべてがわかります」というキャッチフレーズによる宣伝が効いて、爆発的な人気を呼び年内に六万九千部が売れた。次は『ふるさと百話』の刊行である。これは、『静岡新聞』に昭和四十年七月二日から十年半にわたって連載されたものを改稿してまとめたもので、その第一巻(B6判、三百四十四頁)が刊行されたのは昭和四十六年五月二十五日のことである。これは同四十八年九月一日の第十巻で一つの区切りをつけたが、好評であったためさらに翌四十九年十月から五十二年二月にかけて十一~二十巻が刊行された。
【『静岡大百科事典』 『静岡県歴史人物事典』】
出版局が新設されたのは昭和四十八年十二月のことである。昭和五十一年になって、百科事典刊行の機運が盛り上がり、外部の二十人による編集委員制が組織される。二年間の作業を経て昭和五十三年三月、A4判九百六十九頁の『静岡大百科事典』が刊行された。「三ケ日人からシートピア計画まで」をキャッチフレーズとして政治、経済、歴史、民俗、教育、自然、動植物、人物など郷土的特色を持った六千五百項目を収容。静岡新聞創刊三十五周年を飾る出版物となった。以上のベストセラー、ロングセラーのほかにも様々な書物が刊行されたが、浜松あるいは遠州関係の出版物も多い。こうして、平成三年十二月、同紙の創刊五十周年記念出版として刊行されたのが『静岡県歴史人物事典』である。これは、古代から現代まで政治、経済、産業、社会、文化、スポーツなど全分野から、歴史的な業績を上げた静岡県関係の人物約二千人を収録し集大成した事典である。以上見てきたような実績を通して、同社の出版局が地方紙の出版活動の意義を深く認識し、地方文化向上のために着実な努力を重ねていることが見て取れるのである。