佐鳴湖の浄化

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【佐鳴湖の佐鳴湖のクリーン作戦 佐鳴湖の水質】
 佐鳴湖の浄化対策としてこれまで周辺の下水道整備が行われてきた。しかし、湖水の汚れは深刻な状態が続き、昭和六十三年の調査では全国ワースト二位であった。県はこの対策として湖底に堆積(粘土層の上に約五十センチメートル)しているヘドロ(このヘドロから溶出される窒素やリンなどで湖水の富栄養化がなされる。)の除去に乗り出すことを決め、平成元年三月二十三日から試験工事を開始した。湖面に浮かべたしゅんせつ船で汚泥を拡散せずに吸引して岸の貯留池にパイプラインで運ぶもので、どす黒いコールタール状のヘドロが次々に運ばれた。同年十月には、建設省は生活排水の流入で汚れている湖沼の浄化と湖畔の環境整備を行うレイクフロント整備事業のモデル地区として浜松市の佐鳴湖を指定、平成二年度からこの事業は静岡県が主体となって行うことになった。事業は治水と水質汚濁の対策としてヘドロの除去と残土を利用して湖岸の埋め立てや盛り土とし、水辺に散歩道や公園、野鳥公園、親水デッキなどを作るというものであった。ヘドロは公園造成や遊休養鰻池の埋立や肥料などに活用できるとし、県は湖自体も浄化能力があり、ヘドロを除けば佐鳴湖は確実にきれいになると考えていた。一方、浜松市が進める下水道は平成二年三月までに面的整備が七十三%となり、平成七年にはこの地域の下水道は完備する予定であった。このほか、佐鳴湖をきれいにする会は昭和六十一年から佐鳴湖のクリーン作戦を始め、湖岸のごみや空き缶などを拾い、草刈りもするなど佐鳴潮の美化に大きな働きをした。当初は富塚と入野地区の住民(小中学生も)が参加したが、平成二年からは佐鳴台地区の自治会も加わって運動を繰り広げた。ヘドロの本格的な除去作業は平成三年一月八日から始まり、固化剤で固められたヘドロの一部は湖岸の埋め立てに使われたが、その他のヘドロは運搬先や利用方法が未定で問題を残していた。平成五年になってヘドロは庄内半島の中開地区の遊休養鰻池の埋め立てに使うことが決まったものの、平成六年度末までに目標の五十万トンに対し、半分以下の二十二万トンに過ぎず、流域の下水道の普及率は六十%、まだ、新川、権現谷川、段子川からは生活雑排水が佐鳴湖に流入、平成六年になっても佐鳴湖の水質はワースト二位を〝堅持〟していた。佐鳴湖の浄化に取り組んできた静岡県浜松土木事務所は佐鳴湖の浄化に水生植物(ヨシ、マコモ、ガマ、ヒシ)を湖岸に植え、水生植物が持っている自然の浄化機能によって水質の改善を図ろうと、平成八年四月二十五日から試験植栽を始めた。このような中、平成八年十二月の市議会では、県が進めている佐鳴湖の「しゅんせつが効果あるという根拠はあるのか。市はいつまで毎年、二、三億円も負担し続けていくのか」との質問が出された。これに対して市は「三年度と六年度を比べると生息する魚類も十六種類から二十七に増えるなど、効果は見られる。ただ、水質は改善されず、特効薬は見当たらない」が、当面は県の事業に協力していきたいと述べた。ヘドロは平成十年度までに予定の五十万トンを取り除いたが、これだけではCOD(化学的酸素要求量)を8前後にするという目標は達成できなかった。

図4-6 ヘドロの除去作業を伝える新聞記事

 こうした折の平成十二年七月七日には待望の新川(佐鳴湖は都田川水系の新川の一部)放水路の通水が始まった。これまで佐鳴湖からは、湖の南西岸から新川によって湖水が流れ出ていたが、新たに北西岸(佐鳴湖漕艇場付近)から延長一・二キロの放水路を開削、東神田川につなげ、東神田川も一部(〇・八キロ)を拡幅して増水時に佐鳴湖から流出する洪水を人家の多い地区を避けて円滑に下流に流すもので、昭和四十八年から工事を進めてきた。これはこれまでたびたびあった洪水の防止に加え、より多くの通水によって佐鳴湖の湖水浄化の役割も狙ってのものであった。
 佐鳴湖の水質浄化の新たな取り組みとして、静岡県は接触酸化施設を平成十三年四月から稼働させた。これは水質浄化の作用を持つ植物(ヨシ)を植える植生水路をつくり、湖水をここに通してから縦四十一メートル、横十六メートル、深さ六メートルのコンクリート水槽に入れ、微生物で汚濁物質を分解するというものであった。
 平成七年度から同十二年度にかけて県などが取り組んだ水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンス21)の佐鳴湖の水質浄化事業では水質の改善は見られなかった。このため、平成十三年八月十日に国土交通省の清流ルネッサンスⅡ(第二期水環境改善緊急行動計画)の第一次計画対象河川に佐鳴湖が選定された。この選定を受けて、県はこれまで以上に市との連携を深めることと、清流ルネッサンスⅡ佐鳴湖地域協議会を平成十三年九月十七日に発足させた。これは周辺の自治会、環境工学・地域経済学・応用生態学の専門家、県や市の担当者ら二十一人でつくるもので、佐鳴湖浄化へ行動計画の策定を目指した。このような中、浜松市や市民でつくる環境団体などは県が設置した接触酸化施設は佐鳴湖の浄化には不向きであるとの意見書を提出、これに伴い二基目以降の設置見直しが検討されることになり、抜本的な水質改善策が見つからない状況となった。県はこれからの水質浄化の対策を探るため、総合力で汚染原因を究明しようと佐鳴湖浄化対策専門委員会を設置し、平成十四年七月三十日に初会合を持ち、現地調査をした。この委員会は研究結果や水質改善策を清流ルネッサンスⅡ佐鳴湖地域協議会に提言することになった。この半年後の同年十二月二十五日に、環境省は平成十三年度の全国百五十三湖沼中水質ワースト1が佐鳴湖であると発表した。浜松市はこれを受けて、引き続き下水道の整備を進めるとともに、地下水涵養のための雨水浸透設備の設置、農地での窒素やリンの施肥量の削減、湖岸の水生植物の保全を進めるとし、県も佐鳴湖下流の新川の浄化対策も進めるとした。平成十四年度でも佐鳴湖は全国ワースト1となり、県や市は新たな対策を模索する中、平成十五年十一月十三日に静岡大学工学部は佐鳴湖の汚濁原因解明と浄化技術の提案を目指す学部プロジェクトを立ち上げ、根本的な水質浄化の研究を開始した。