教会と音楽

995 ~ 997 / 1229ページ
 仏教寺院やキリスト教会の場合、その建造物の外観、内部の列柱や壁面・窓などにおける装飾や彫像、室内に込められた香料や生花、儀式における音楽、これらは信者に訴え、帰依に導き支え、戒律を伝え、信仰を育てる力がある。教義を深め、その意義を説く。この歴史の厚みの中には生きる勇気を与えてくれる工夫された演出が生まれている。荘厳、そのことである。仏教における荘厳は既述した。
 
【遠州栄光教会】
 ここではキリスト教会、特に遠州栄光教会における音楽演奏について見る。生身の人の声や楽器の音は生命の根源から発生し深化したことから、歌唱法や楽器の創出など個々様々な音楽の展開があった。それは生命の系統発生を再現することに似て、歴史上の時空に従い、人々の苦悩を解放し、魂を浄化する方法が展開した。まさに音楽は信仰と同じで、教会音楽は音楽文化の発生源であろう。
 平成元年三月八日付記事では、遠州栄光教会の建物が浜松市都市景観賞を受賞したと記している。これより前の昭和五十九年六月十九日付記事では、音響効果を考慮した施設であることから、礼拝堂を音楽文化向上のためにも、一般市民に開放したいと伝えていた。その後の活用状況はいかがか。時間軸に沿って幾つか記事を拾ってみる。
 平成元年六月六日付記事では、次のように報じている。市民の混声合唱団「浜松アルス・アンティカ」が二十五日に演奏会を開くこと。第一部パレストリーナ「ミサ・ブレビス」、第二部ビクトリアのモテット集、第三部楽しいマドリガル集という構成。客員指揮者は戸崎裕子(静岡児童合唱団指揮者)。
 
【森下幸路】
 平成元年八月二十日付記事では、次のように報じている。教会コンサート委員会(委員長・西村一之牧師)はハイドン弦楽四重奏曲の全曲連続コンサートの開催。演奏者はチェロ安田謙一郎主宰の弦楽四重奏団で、第一バイオリン安田明子、第二バイオリン森下幸路、ビオラ白尾偕子のメンバー四名。ハイドン弦楽四重奏曲の八十曲余を二、三カ月に一回の割合で全曲演奏する方針。演奏者の旅費、コンサート運営費は来場者のカンパによると報じた。なお、森下幸路は浜松湖東高校、桐朋学園大学音楽学部、米国シンシナティ大学特別奨学生の経歴を持ち、平成元年にはサイトウ・キネン・オーケストラのヨーロッパ・アメリカ公演に参加していた。
 平成二年一月二十七日付記事ではハイドン弦楽四重奏曲の全曲演奏の継続を報じた。来場者のカンパによる運営である。向こう四年を目標に継続する予定という。
 平成二年四月二十五日付記事でも同様にハイドン弦楽四重奏連続演奏会の年間プログラムを報じた。平成三年九月二十九日付記事では、ハイドン弦楽四重奏団の演奏会が三年目に入り、十月十一日の第八回演奏会で三分の一を終了すると報じた。かくて、平成六年十一月二十日にハイドン弦楽四重奏曲演奏は終わった。この間に白尾隆によるハイドンのフルート三重奏曲の演奏もあった。
 右はハイドン弦楽四重奏団の演奏会記事を追ったものである。
 平成二年五月八日付記事には、ピアニストの小林道夫を招き室内楽の定期演奏会の開催が報じられている。演奏者は森下幸路ら桐朋学園大学出身者五名。演奏曲目はベートーベンのバイオリンソナタ第一番ニ長調作品12―1、モーツァルトのピアノ四重奏ト短調などである。
 平成二年十二月二十八日付記事では、「ベートーベン・バイオリンソナタと室内楽の夕べ」が開催されたことを報じた。同三年二月十一日付記事では、「ベートーベン・バイオリンソナタと室内楽の夕べ、小林道夫と仲間たち」が開催されると報じた。
 ハイドン弦楽四重奏曲連続演奏の場合も、小林道夫らの室内楽の夕べの演奏会も、入場者から運営費として自由カンパを募ってきている。これは経済原則を第一義とする商業的貸ホールとは異なって、聖域の原理に基づく献金の意であろうか。
 平成十六年十月三日付記事では、浜松市とその周辺に在住する同志社女子大学音楽学科卒業生による「葡萄の木コンサート」が十月二日に開かれ、豊田真由美(声楽)、大城朋子(ピアノ、オルガン)、中村泉(フルート)、中島典子(ピアノ)のほか、愛知県立芸術大学ピアノ科卒業の山崎文佳が出演し、バッハ、ヘンデル、モーツァルトなど九曲を演奏したと報じた。
 右は遠州栄光教会の音響施設を十二分に活用して教会音楽の源流を現代に生きる荘厳の例証である。