【無保険状態】
日本の社会保険制度のうち、医療保険では国民が病気になった時、医療機関では費用の三割負担で治療が受けられるようになっていた。労働者が健康保険に入ると、保険料は企業と労働者が折半して払うようになっていた。また、厚生年金への加入も義務付けられていた。外国人労働者の場合も同じで、健康保険料は給料から引かれ、さらに厚生年金の年金保険料も支払うようになっていた。この保険料の負担をためらう事業主や外国人労働者が少なからず存在し、一部の労働者は国民健康保険に入る者も出てきた。ところが、国保に入った外国人労働者の中には、二年目から保険料の高額なことから滞納する者が出始めたり、移住や転職がたびたびあり、この際の手続きを怠ること、本来、社会保険に加入すべき人が、国保を使って高額な治療をすることなどから多くの問題が出てきていた。政府や地方自治体は外国人の受け入れ企業に対しては社会保険に入るように勧めてきたが、平成四年三月の厚生省の通達(国保の適用対象となる外国人の基準の明確化)を受けて浜松市は社会保険への加入をより一層指導するようにした。これにより、外国人労働者の中には無保険状態になる者が増えてきた。
このような無保険状態に陥っている外国人を救済すべく、へるすの会と浜松中ロータリークラブの共催で外国人のための無料健康相談と検診会が平成八年十月に駅前のフォルテビルで開催され、受診者は二百五十九人に及んだ。翌年には浜松外国人医療援助会が設立され、この無料検診会が継続された。平成十一年十月に行われた第四回の無料検診会は大きな病院(遠州病院)で実施されたため、受診者数は五百七十四人と急増した。なお、この受診者の約半数が無保険者であった(浜松外国人医療援助会の資料による)。これらについては『新編史料編六』 八医療 史料24を参照されたい。この会の活動のほか、ボランティア団体のグルッポ・エスペランサの人たちが、平成九年三月に市役所を訪れ、市長と市議会議長に外国籍定住者の医療保障をめぐる陳情書を提出した。この陳情の主な狙いは、医療保険加入の実態調査の実施と外国籍定住者の国民健康保険加入を認めてほしいというものであった。
平成十一年五月に新しく就任した北脇保之市長は「技術と文化の世界都市・浜松」という構想を掲げ、重点政策の一つに外国人市民との共生を挙げていた。そして、同年十月には外国人との懇談会で保険がない状態を解決できるように努力したいと述べた。また、市議会も同年十二月に、在日外国人の医療保険制度の見直しを求める意見書を全会一致で可決し、国に働き掛けていった。
【外国人集住都市会議 浜松宣言及び提言】
この後、浜松市は平成十三年十月十九日に開いた外国人集住都市会議(浜松市など十三市町が参加)で、浜松宣言を採択、社会保障等について国・県・関係機関への提言事項をまとめた。それには次のようなことが記されていた。
・現行の社会保険制度では、健康保険と年金・介護保険のセット加入が義務化され、永住を前提としない外国人住民の実情に合っていない。セット加入の緩和などを図るべきである。さらに、母国に帰る時に保険適用期間の納付額を返還する制度を検討すべきである。
・国民健康保険制度は資格適用や賦課などで外国人住民に理解が得られにくい状況にあり、保険料滞納などの課題が多い。将来的には外国人向けの医療保険制度の創設を検討すべきである。
このほか、外国人労働者の労働環境整備については、業務請負業者など外国人を雇用する事業所をはじめ社会保険適用事業所において、確実に社会保険制度への加入促進がされるよう監督官庁の指導体制を強化することや、事業所が外国人を雇用する業務請負業者と契約する場合は、社会保険等に加入していることを条件とするなど、企業責任の明確化を図ることを検討すべきであるなどとした(「外国人集住都市会議 浜松宣言及び提言」)。