[宝石店事件と外国人差別問題]

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【外国人差別】
 平成十年六月十六日、浜松市内の宝石店で女性が入店してショーケースの中を眺めていたところ、店主が寄ってきて出身を聞いた。女性がブラジルと答えたところ、店主は「この店は外国人立ち入り禁止だ」と言った。女性が理由を問うと、店主は店の壁に掲示していた「外国人の入店は固くお断りします」と書かれた紙を指差し、さらに奥の壁に掛けていた「出店荒らしにご用心!」と題する浜松中央警察署作成の貼り紙を外して女性の顔に近付け、「店から出なければ警察を呼ぶ」と退店を求めた。ブラジルのテレビ局の浜松支局の記者をしていた女性は、同年八月五日、ブラジル人であることを理由に店から追い出そうとした店主らを被告として、静岡地方裁判所浜松支部に損害賠償の訴えを起こした。さらに、静岡地方法務局浜松支局と静岡県弁護士会へ人権侵犯として救済の申し立てをした。当初、女性から裁判について相談を受けた弁護士は、裁判はとても無理と判断していたが、女性はわが国が批准している国連の人種差別撤廃条約に個人による人種差別も禁止していることなどを理由に提訴に踏み切った。この裁判は全国的にも大きな反響を呼び、平成十一年十月十二日には静岡地裁浜松支部に多くの報道関係者が詰め掛けた。注目の判決は、この事件を人種差別撤廃条約違反と断定、民法上の不法行為として店主側に百五十万円の支払いを命じ、原告側の訴えを認めた。翌日の各紙は「入店拒否は不法」「人種差別撤廃条約に違反」「店側に賠償命令」などの見出しで報道、合わせて、共生への課題が浮き彫りになったとか、法律や条例などの整備の必要性を訴える声を載せていた。