平成十五年一月二十五日付の『静岡新聞』には、前年末に急性大動脈かい離を発症した御殿場の女性患者が、県の防災ヘリで浜松医科大学医学部附属病院に搬送され、手術によって助かり、このほど退院したという記事が報じられている。この患者は御殿場の病院に出張していた浜松医科大学の医師が心臓血管外科の医師であったことが幸いした。ヘリの所要時間五十分、診断から三時間後、数井暉久教授らによる七時間半に及ぶ手術を受けたものであった。防災ヘリがドクターヘリの役割を果たし「時間が勝負」に成功したものという。
平成十六年一月六日付の『静岡新聞』には、県が国庫補助を受けてドクターヘリの二機目を導入することを報じている。二機目の導入は全国で初めてであり、順天堂大学医学部附属伊豆長岡病院(後に順天堂大学医学部附属静岡病院)を基地とするものである。なお、伊豆半島の東地域は神奈川県伊勢原市の東海大学医学部付属病院のドクターヘリが分担している。
平成二十一年二月二十八日付の『朝日新聞』によると、伊豆半島南部におけるドクターヘリの夜間運航問題について、専門家らによる検討会が開かれた。伊豆半島南部地域から最寄りの救命救急センターである順天堂大学医学部附属静岡病院(伊豆の国市)まで救急車で一時間半以上かかる。ドクターヘリならば二十分である。しかし、伊豆地域は海上や山間地を飛行するため、夜間はパイロットの目視に頼る有視界飛行が出来ない。夜間の緊急時に備えてドクターヘリの夜間運航が検討されたわけである。その検討の結論が、「下田―浜松間の運航が妥当」というものであった。夜間には管制官の指示に従う計器飛行をするためには、自衛隊の管制圏内にある聖隷三方原病院のドクターヘリの方が適しているという判断である。これにともない平成二十一年中に飛行経路の開設を航空局に要請するという。
【矢部宏治】
しかし、この地域は米軍の管理空域に近く、自衛隊の管制圏内に民間機が入り込むことは、国と県の行政判断上の問題となり、その解決が待たれるのである(矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』平成二十六年刊)。
ドクターヘリの導入は地域による命の格差があることを認めないという社会的動向を強め、県境を越える横断的な初動体制を敷くという地域連携の効果が一層期待されることになる。