平成十九年六月二十七日に救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法が制定され、平成二十年十一月には国会において超党派のドクターヘリ推進議員連盟が交付税措置の充実を求める決議がなされた。これを受けて平成二十一年三月、ドクターヘリ運航費に対する特別交付税の財政支援を決め、全国の自治体の負担が年間基準額の約八千五百万円から半分に軽減されるように省令を改正している。もっとも、補助金の基準になる出動回数は年二百四十件で計算されてきたが、その基準を上回る自治体も多いという。上回った分は拠点病院か、ヘリコプター運航会社か、自治体か、いずれかの負担となるという(平成二十一年四月八日付『朝日新聞』記事)。
【國松孝次】
平成二十二年六月二日付『朝日新聞』には、NPO法人「救急ヘリ病院ネットワーク(HEM―Net)」理事長國松孝次(元警察庁長官、前スイス大使)が、平成十九年六月二十七日制定のドクターヘリ特別措置法に基づくその運航費用について提言を寄稿している。國松孝次はその著『スイス探訪』(平成十五年四月、角川書店刊)で、山岳国家としてのREGA(スイス航空救助隊)について縷説(るせつ)している。スイスのドクターヘリは国家からの補助はなく、保険と醵金(きょきん)とで維持される。スイス居住者が年間三十フラン(一フラン八十円として約二千四百円)を醵出(きょしゅつ)して「パトロン」となり、この醵金によって賄われる。自身夫妻もそれであったという体験と知見に基づいた提言である。ドクターヘリは救急車を補完し、救急車では間に合わない命を救う最後の切り札という観点から、その運営費用は社会全体で支えるという理念に基づき、制度設計されるべきであるという。ドクターヘリの運航費用は一機当たり年間約二億円。国と都道府県が折半する。この税金だけで運航費用を捻出するのではなく、医療保険を適用することを提案している。ドクターヘリの運航を患者搬送と認識するのは誤りである。「ドクターヘリは、患者を搬送する以前に、医師・看護師を現場に緊急派遣し、一刻も早く医療を開始することを最大の使命とする。救急医療には必須の手段であり、『診療』以外の何ものでもない。」という。まさに往診と同等の考え方である。