医薬分業は医師による患者の囲い込みによる薬価利益の独占を排除する側面があり、他方では戦後の化学薬品における技術革新に伴う薬学の進展を前にして、医師は調剤の時間や人件費が省け、保険の請求事務が簡素化され、医師の診療時間が確保できるという側面もある。この医師側の利益・不利益について報じているのは、昭和五十五年六月十五日付の『静岡新聞』である。これは静岡市薬剤師会が、医師を対象にして行った医薬分業を推進させるためのアンケートの結果分析であった。他方、医師の本音のような記事も併記されている。接客時に薬剤師の不用意な発言によって、医師と患者の信頼関係が崩れないか、処方箋通りに調剤できるか、などを懸念する回答もあったことを記している。静岡市薬剤師会としては患者の理解が得られれば医薬分業は可能であるという。
昭和五十五年七月八日付の『静岡新聞』によれば、厚生省は昭和三十三年から医薬分業を浸透させるべく実現に尽力し、同五十年に診療報酬の見直しが行われ、処方箋を作成する医師の技術料が引き上げられたので、医薬分業は急速に普及したという。同五十四年度中に静岡県内の調剤薬局に支払われた国保による調剤報酬は、十一万八千七百三十二件、四億五千九十三万八十七円で、支払い先の調剤薬局延べ数は六千七百七十九。前年度が八万六千四百件、二億七千二百二万三千九百七十一円、調剤薬局延べ数六千三百二十四。両者を比較すると、件数で三万二千三百三十二件(三十七・四%)、金額にして一億七千八百九十万六千百十六円(六十五・七%)と大幅に伸びていることを報じた。
【浜松市薬剤師会】
その後も県薬剤師会や浜松市薬剤師会は医薬分業を推進させるために、「くすり110番」を設けてPR活動に努めている(昭和五十八年十月十三日付、同五十九年十月二十二日付『静岡新聞』)。その相談内容はおしなべて患者に接する時の医師側の説明不足に起因するとし、飲み方、薬効、有効期限、妊産婦への注意喚起を呼び掛けるものである。この傾向が至るところは、浜松市薬剤師会の薬品情報室「くすり110番」が、昭和六十年四月で設置二周年を迎えたということであり、その存在理由が明確化している。すなわち、医薬品、化粧品、農薬、塗料、健康食品の効果や副作用、中毒に至るまで幅広い相談があることである(同六十年三月八日付『静岡新聞』)。