医薬分業を実体化させる営為は、薬剤師法の改正に基づく薬剤に関する情報提供である。処方箋に基づいて薬局窓口で薬剤師による説明が、医師の説明不足を補うものと期待されていることが、先の「くすり110番」の電話相談による件数の多さに現われているという。この薬剤師の新たな世界は病床病棟に常駐することで開かれてゆく。
【薬剤師の業務】
右の「医薬分業後の新たな挑戦」の中で、大貫よし子薬局長は病棟服薬指導業務などについて提言した。その文意の延長上に位置するのが、立命館大学教授柿原浩明医師の「薬剤師の業務拡大 病棟の中へと導くために」という論文であろう(『朝日新聞』平成二十三年二月二十四日付記事)。それは薬学部教育が六年制になった段階で、薬剤師が病棟での業務に進出していくのは「当然の流れ」という。「病棟での薬剤関連業務としては、持参薬の確認、注射薬の混合、服薬指導、内服薬の与薬、注射・点滴実施など」がある。「病棟内の薬剤関連業務を薬剤師に任せることにより、医師・看護師は固有の業務に専念」できる。他方、「新薬開発の流れは、従来の内服主体の低分子薬から、注射主体の抗体医薬に変化」しているので、「薬剤師の注射を認め、病棟配置を診療報酬にカウントする」という提案を述べたのである。
【医療事故防止】
病棟に薬剤師を配置することは、端的には医療事故を防ぐことにある。医療事故につながりかねないミスの三割は薬に絡むものという。「病棟に常駐する薬剤師は患者が入院すると、薬の種類や数、アレルギーや副作用歴などを聞きリストに記入し、医師や看護師らスタッフも活用する」という結果を生んでいる。これは平成二十三年六月二十九日付『朝日新聞』夕刊に掲載された「チーム医療は今」3の記事である。
【渡邉亨】
医薬分業の赴くところは右の状況が必至となろうか。このチーム医療について開業医である浜松オンコロジーセンター渡邉亨が、現場からの発言をしている(平成二十五年三月一日付『朝日新聞』記事、「がん内科医の独り言」)。医師が出す抗がん剤の処方箋には薬剤名、分量、日数のみの記載であるため、薬剤師にとって患者の全身状態を知ることも出来ず、不安を覚える。他方、医師として薬剤師の知見を患者に即して発揮してもらうのには、医薬分業ではなく院内調剤で対応するところに意味がある。ますます複雑になるがん治療ではチーム医療が不可欠であるという主旨が述べられている。