[脳・精神科学の探求]

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【脳・精神科学平和探求国際会議 光科学技術研究振興財団】
 浜松ホトニクスは光科学技術研究会(浜松ホトニクスを中心に大学の研究者ら約二十人で組織)と共同で、昭和六十三年四月二十九日から五月三日までの間、第一回の「光科学技術で拓く、脳・精神科学平和探求国際会議」を浜松市内で開催した(『新編史料編六』 八医療 史料10、『静岡新聞』昭和六十三年四月七日付)。この会議で脳・精神科学を推進するには光技術を積極的に取り入れることが不可欠であり、研究拠点を浜松地区(浜北市)に置くことが議決された。他方、昭和六十二年六月の役員会の賛成を得て、光科学技術研究振興財団の設立準備を進め、主務官庁である科学技術庁と通商産業省に財団設立を申請した。昭和六十三年十二月二十三日、両省庁の許可が下りた。この背景には次のような経緯がある。
 
【PET】
 晝馬輝夫社長が抱懐した、二十一世紀は脳科学の時代、産業にも多大な影響を及ぼすという将来展望から、昭和六十年にPET(Positron Emission Tomography 陽電子放出断層撮影装置)が脳機能解明の優良な道具と考えたことによる。そこで晝馬輝夫は核医学分野の第一人者でPET医学研究の草分け的存在である米国ジョンズホプキンス大学のH・N・ワグナー教授に面会した。その際に高性能PET装置の開発の要請があり、応用研究協力の承諾を得ている(『県西部浜松医療センター 先端医療技術センター活動報告書―設立10年間の活動と実績―』所収、「浜松ホトニクスと先端医療技術センター」)。
 平成二年八月にはその第三回(光科学技術研究振興財団主催)が開催され、近赤外線コンピューター断層撮影という画期的な画像診断技術、X線顕微鏡などに関する新技術、脳や生体内部の変化を動画として取り出す技術などが注目されたという(平成二年八月十日付『静岡新聞』)。
 平成十年二月十二日付『静岡新聞』には第七回の会議の記事がある。身体の代謝活動を測定できるPETを使った研究や応用の成果を発表したもので、「脳の遺伝子と機能」、「脳の老化と痴ほう」、「脳神経科学における光技術の役割」などのテーマについて、意見交換や研究発表があったという。
 平成十二年二月五日付『静岡新聞』には、「脳・精神科学平和探求国際会議」の第八回の会議の模様が報じられている。同年二月二日~四日の三日間で医療・工学などの世界の研究者が遺伝子発現の画像化に焦点を当て、脳の働きを解明する研究が発表された。光科学技術の応用例として、県西部浜松医療センターのPETの臨床研究成果、尾内康臣医師による痴ほうの診断と治療について、また、鳥塚達郎医師によるがんの早期発見についてなどの報告があった。二月四日の会議最終日には簑島聡ミシガン大学教授(核医学、県西部浜松医療センター顧問)は、脳内を解明するのに微量の放射性物質を投入しPETにより代謝をつかむ方法や、新たに蛍光物質を生体内に入れて解明する方法によって、遺伝子発現や機能を解明し、遺伝子治療の可能性を指摘した。その上で、「PETを開発した浜松ホトニクスや、PET診療所のある県西部浜松医療センターを抱える浜松は、がんや痴ほうの治療など先端医療のモデルになる」と強調した。
 
【先端医療技術センター 浜北PET検診センター】
 なお、右に言及されている先端医療技術センターは平成八年四月、県西部浜松医療センター附属診療所として浜北市平口の浜北リサーチパーク内にある浜松ホトニクス敷地内に開設された。設立当初は三大成人病(がん、脳卒中、心臓病)と認知症の病態解明と、治療効果判定などを主要テーマとし、PETによる臨床検査、脳機能や脳疾患の病態の研究等を掲げている(前掲『活動報告書』)。また、平成十五年四月十六日付『静岡新聞』には、「浜北PET検診センター」が同日に完成したことを報じている。これはポジトロン(陽電子)を放出する薬剤を体内に投与し、PETでその分布を調べ画像化する検査装置である。一度の検査で全身を計測し、ミリ単位の早期がん細胞の有無や脳、臓器の機能低下を診断できるというものである。

図4-39 浜北(浜松)PET検診センター (浜松PET診断センター)