[腸管出血性大腸菌(O157)]

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【O157】
 感染症新法の三類に属す腸管出血性大腸菌(O157)によって、平成八年五月に岡山県で約四百人が発症し、児童二人が死亡した。これを端緒に全国的に広まった。七月には大阪府堺市で約六千人の患者が発生した。そのほとんどが学校給食による集団発生であった。感染源の特定が遅れたこともあって、生鮮食料品問題や学校プール閉鎖などの社会問題化した。同年八月に至って厚生省はO157による感染症を伝染病予防法上の伝染病に指定し、平成十年に右の如く新法の三類に規定したのである。
 人間や動物の腸内に常在する大腸菌は約百八十種類あり、食物繊維の消化を助けたり、ビタミンKを作り人と共生する善玉菌である。牛の腸にいる大腸菌は悪玉菌で、病原性大腸菌という。そのうち腸などで出血を起こし、腎臓に悪作用して溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳神経を冒して脳症を起こすのが腸管出血性大腸菌であり、約四十種類ある。大腸菌の構造の違いで、発見順に番号を振って分類している。O157のほかにO111があり、平成二十三年四月に富山県内や横浜市内での焼き肉店で起きた集団中毒事件はユッケ用の肉から検出されたのが大腸菌O111であった。
 平成八年六月以後の『静岡新聞』はもとより、各新聞は大きく取り上げているが、浜松市は『広報はままつ』によって市民に注意を喚起している。平成八年八月十日付『静岡新聞』では、浜松市では指定伝染病になったO157による二次感染を防ぐために、患者家族に投与する抗生物質などの医療費を公費で負担することを決めている。本来、伝染病予防法では検便などで伝染病であることが確認された場合、患者家族に対する検便や消毒、治療が行われ、確認前の治療にかかった医療費は保険請求できない。浜松市保健所は二次感染防止の観点を優先したのである。平成九年十二月二十八日付『静岡新聞』では、平成八年には六名の患者発生があったが、同九年には患者発生ゼロであるという。保健所の説明は食材取り扱い業界に感染防止策が徹底していたこと、感染源の一つとされる食肉の処理段階で、O157を封じ込めたことを挙げている。つまり牛の解体時に腸の内容物を外部に出さないようにする処理方法が食肉への感染ルートを遮断したのである。しかし、平成十六年までの間、O157による患者発生を報ずる新聞紙上の記事は絶えなかった。
 
【藤井潤】
 右に見た平成二十三年四月の腸管出血性大腸菌O111によるユッケ食中毒事件について、藤井潤九州大学准教授(細菌学)は、「肉の『生食』は悪しき習慣」とコメントした。魚の刺し身は新鮮な食材、適切な処理・保存されれば問題は少ない。「海産魚介類の食中毒原因菌、腸炎ビブリオは1万~10万個で発症し、それ未満の菌数を口にしても発症しないからだ。これに対し、O111、O157、O26などの腸管出血性大腸菌はわずか数十~数百個で感染したとの報告がある。感染原因が特定されないので、食中毒事件として表沙汰になりにくい。今回は氷山の一角だ。複数の患者の下痢便から遺伝子型が同一の菌から検出され、共通食材があったから特定できた。」と評している(平成二十三年六月三日付『朝日新聞』、「私の視点」掲載)。