平成三年六月七日付『静岡新聞』には県結核予防婦人会浜松市支部の年次総会記事があり、保健所の諸活動への協力を議決しているが、平成二年度の市内の結核患者は二百三十七人で横ばいを続けていると報じている。平成九年六月三十日付記事では、平成四年から同八年までの新たに結核と診断された登録患者数が記載されている。すなわち、四年・二百四十二人(外国人十二人)、五年・二百十八人(八人)、六年・二百二十七人(七人)、七年・二百人(四人)、八年・百七十二人(五人)である。特に八年は、内訳(男百一人、女七十一人)で、六十歳以上の患者が百十四人(六十六%)で、高齢者が目立つと記している。
【結核緊急事態宣言】
新規結核患者数が全国的に見て減少、ないし横ばいの傾向が平成九年には三十八年ぶりに増加したので、厚生省は結核対策を強化するために、平成十一年七月二十六日に「結核緊急事態宣言」を発するに至った。『広報はままつ』(平成十一年九月二十日号)も浜松市も例外ではないと記している。この原因は結核に対する認識の低下、薬の効かない多剤耐性結核(現在の治療の中心である薬が二種類以上効かなくなった結核)の出現、集団感染や院内感染などがあるという。もっとも、現在の結核薬はいずれも五十年近く前に開発され、副作用が強い。それを数種、長期に飲み続けることが治療法であることから、中断すると薬への耐性ができ、ほとんどの薬が効かなくなる多剤耐性結核が出現するのである(平成二十四年七月二日付『朝日新聞』、「窓 論説委員室から」、「結核薬50年の空白」)。
それかあらぬか『静岡新聞』には、市内総合病院の看護婦の発病記事(平成十一年七月十日付)、浜松東警察署警官二十五人の感染記事(同十二年一月三日付)、市内小学校教員の発病と児童合計七十五人の陽性反応を示したという記事(同十二年九月五日付、同十四日付、十月十一日付)、市内中学校の元非常勤講師の発病記事(同十二年十月十一日付、十二月八日付)、市内精神科医院の勤務医の結核発病記事(平成十二年十二月二十五日付)が報じられている。全国的に増加している結核感染の実態を踏まえて、県西部保健所は医療従事者を対象にした研修会を開催し、聖隷三方原病院の中村美加栄医師が講師となり、感染から発病までの流れ、検査手法、治療などの解説があった(平成十三年一月十二日付)。しかるに、平成十四年三月二十五日・二十六日付『静岡新聞』には、聖隷浜松病院の脳神経外科の医師が結核を発病したと報じられている。そのため同病院脳神経外科と脳卒中科に入院・通院した患者約六百五十人と病院職員二百人、その他の関係者約百人の検診を行うことになったという。
右のことなどは先に見た浜松医科大学学生の『実習報告書』が指摘するように、結核患者と接触する機会も多い医師・看護婦など、感染源たり得る職種の者の検診が重要であることを示している。
他方、『静岡新聞』の平成十四年十一月二十三日付では、浜松労災病院に平成七年以来、通院している患者が肺結核であると診断されていたにもかかわらず、同病院は結核予防法に定められた保健所への届け出を行っていなかったことが判明した、と報じている。患者は直ちに隔離入院し、結核専門施設に転院したという。結核無届けによって同病院は希望する患者に無料検査を行い、病院職員の検診を行っている(『静岡新聞』平成十四年十一月二十四日付)。この事件を受けて浜松市は同病院の医師を結核予防法違反容疑に当たるとして、浜松東警察署に告発した(『静岡新聞』平成十四年十一月二十七日付)。