次に、市民オペラ「カルメン」である。浜松市は音楽の街づくりの一環として、昭和六十三年(一九八八)から日本オペラ振興会と共催でオペラ定期公演を開催し、それまでに日本オペラの「袈裟と盛遠」「修禅寺物語」などを上演してきたが、市制八十周年記念としては市民総参加のオペラを目指すこととなった。上演されたのは平成三年(一九九一)八月二十五日であるが、実行委員会の発足は前年の平成二年七月三十日のことで十人の委員が選任された。
委員長には服部頴明(信愛学園高校校長)が就任。計画によると、演目はフランスオペラの代表作「カルメン」(ビゼー作)で、主役三人は浜松市出身のプロ歌手を予定し、ソリスト七人と合唱団員を一般市民から公募するというものであった。応募資格は浜松市およびその近郊に在住、在勤、または出身で、原則として週一回の練習に参加できる人とされていた。九月に募集が締め切られ、十月三十一日合唱団の結団式。合唱団は浜松合唱団に一般応募者を加えた百五十人で構成され毎週一回の練習が始められた。こうして、翌三年八月二十五日の本番を迎える。主役のカルメンには永田直美(藤原歌劇団)、ドン・ホセは黒田晋也(二期会)、エスカミーリョは牧野正人(藤原歌劇団)で、主な三人を浜松市出身のプロの声楽家が務めた。このほか地元出身者による七名のソリストと前記合唱団が出演。また、オーケストラは浜松交響楽団、フラメンコはかおるバレエスタジオが担当し、全て市民による編成であった。『静岡新聞』(平成三年八月二十六日付)は「手づくり『カルメン』に拍手」の見出しで、「市内外から約千二百人が会場に詰め掛け、手づくりのオペラを楽しんだ」と伝えている。
こうして始まった市民オペラは、以後、第二回椿姫(平成五年)、第三回三郎信康(平成十一年)、第四回三郎信康(改訂・再演、平成十三年)、第五回魔笛(平成十六年)、第六回ラ・ボエーム(平成十九年)と開催されたが、第七回以後は財政的な理由などにより無期限延期となっている。
図4-42 第2回浜松市民オペラ「椿姫」