専門部会長 村越潔
さきの『弘前市史』(藩政編と明治・大正・昭和編)の刊行から既に30年を経過した。思い起こすとその当時は、藩政以前の時代を何故に取り扱わぬか不思議に思っていたが、このたび『新編 弘前市史』を担当するに及んで、その理由が幾分なりとも理解できたように思う。振り返って見ると30年前は、市の教育委員会が中心になって実施していた、岩木山麓に分布する遺跡の緊急発掘調査が終了し、膨大な出土遺物の整理・研究がようやく軌道に乗りはじめたときでもあり、仮に原始・古代についての考古編執筆を要請されたとしても、恐らく力不足で応ずることは不可能であったろう。
今回刊行に漕ぎ着けることのできた『資料編1』は、自然に関する分野と、文字による記録のない原始時代、ならびに古代・中世の僅少な記録を遺構・遺物により補った「考古編」と、古文書・古記録を史料とする「古代・中世編」から成り立っている。特に後者は蝦夷・北方関係史料のほか、中世城館ならびに弘前地域の金石文(五輪搭・宝篋印塔・板碑など)が多数盛り込まれ、充実した内容となっている。
考古編はかつての岩木山麓や、近年の開発に伴う調査で発見された遺構・遺物を、現状で可能な限り掲載することに努めたが、満足する結果にはならなかった。また頁数が予定をはるかに超えために、今回は自然分野の「気候」と、考古の分野に加える予定であった「考古学研究の歩み」は、通史編に先送りせざるを得ない状況となった。
この『資料編1』は刊行予定を約1年遅れており、待ち望んでいた方々には大変申し訳ないと思う。遅延の理由は種々あるが、それを述べると自己防衛を意図した言い訳になってしまうであろう。後の『通史編』において挽回することをお約束して、今回はお許しいただきたい。