しかし、我が国における旧石器発見への願望と研究の礎は、昭和初期に本県で採集された石片を基として、学会誌上で論述されたことによる。それは、昭和2年(1927)8月に仙台で開催された日本学術協会の終了後、会員による東北地方巡検の際、夏泊半島の椿山海岸汀線において東北大学の曽根廣(そねひろし)が2個の石塊を採集し、研究の結果、フランスの前期旧石器であるシエレアン文化以前の旧石器ないしはエオリス(原石器)に似ているとの考えを発表した*6。
また、昭和28年(1953)6月には、明治大学の杉原荘介を中心とする第四紀研究のメンバーによって、北津軽郡金木町の藤枝溜池南岸にある砂礫層から発見された石片等が研究の結果、結論付けられたが*7、本県を舞台にした旧石器はもちろん、さらに古い前期旧石器を求める研究者の真剣な心意気が感じられよう。
青森県では、旧石器を出土する遺跡は20か所ほどあり、それらはすべて後期旧石器時代ないしそれ以降に属するものである(表1)。
表1 青森県旧石器出土遺跡一覧表 |
遺跡 番号 | 時代 | 遺跡名 | 遺跡所在地 | 出土遺物 |
1 | 旧石器 | 物見台 | 下北郡東通村尻屋字物見台 | ナイフ形石器ほか |
2 | 〃 | 大川目 | むつ市城ヶ沢字大川目 | 石刃・ナイフ形石器 |
3 | 〃 | 稲平 | 下北郡脇野沢村小沢字稲平 | 小形削器ほか |
4 | 〃 | 吹越 | 上北郡横浜町吹越 | 細石刃ほか |
5 | 〃 | 目ノ越 | 上北郡野辺地町目ノ越 | 石刃 |
6 | 〃 | 戸鎖 | 上北郡六ヶ所村鷹架字後川目 | 尖頭器 |
7 | 〃 | 発茶沢(1) | 上北郡六ヶ所村鷹架字発茶沢 | サイドスクレパー・剥片 |
8 | 〃 | 幸畑(7) | 上北郡六ヶ所村鷹架字道ノ下 | スクレパー(掻器)削器・尖頭器ほか |
9 | 〃 | 明神前 | 上北郡下田町阿光坊明神前 | 尖頭器 |
10 | 〃 | 沢里 | 八戸市沢里 | 尖頭器 |
11 | 〃 | 中宇田 | 東津軽郡今別町浜名字中宇田 | スクレパー(掻器) |
12 | 〃 | 山崎 | 東津軽郡今別町山崎字山元 | 舟底形石核・剥片・スポール(削片) |
13 | 〃 | 尻高(4) | 東津軽郡平館村今津字尻高川 | 石刃 |
14 | 〃 | 大平山元Ⅱ | 東津軽郡蟹田町大平字山元 | 舟底形石器・尖頭器・ナイフ形石器ほか |
15 | 〃 | 大平山元Ⅲ | 東津軽郡蟹田町大平字山元 | 尖頭器・彫器・削器・細石刃核ほか |
16 | 〃 | 相野山 | 北津軽郡金木町喜良市字相野山 | 尖頭器ほか |
17 | 〃 | 前田野目 | 五所川原市前田野目字鞠ノ沢 | 石刃 |
18 | 〃 | 大森勝山 | 弘前市大森字勝山 | ナイフ形石器・彫器・スクレパー(掻器)ほか |
19 | 〃 | 三内丸山 | 青森市三内字丸山 | 尖頭器 |
20 | 〃 | 三内 | 青森市三内字丸山 | 石刃 |
21 | 〃 | 淋代平 | 三沢市三沢字淋代平 | ナイフ形石器 |
22 | 中石器または縄文草創期 | 川代 | むつ市関根字川代 | 立川型有舌尖頭器 |
23 | 〃 | 長者久保 | 上北郡東北町長者久保 | 円鑿形石斧・尖頭器ほか |
24 | 〃 | 大平山元Ⅰ | 東津軽郡蟹田町大平字山元 | 局部磨製石斧・尖頭器・彫器・無文土器ほか |