(5)縄文時代後期

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 先の中期後半期に東北地方南部から北上し、円筒土器文化を包括した大木系土器文化も、その後、関東地方から北上して来た縄文時代後期の称名寺式や、それに続く堀之内式・加曽利各式土器文化の席巻を受けてその中に埋没し、さらにこれらの土器文化は北上を重ねて東北地方北部に達し、海を越えて北海道に及んでいる。
 青森県では、東北地方南部の門前式・宮戸各式(Ⅰ~Ⅲにそれぞれのa・b式がある)などの影響を受けた弘前市十腰内遺跡出土の土器を標識とする十腰内式土器があり、磯崎正彦によって第Ⅰ群から第Ⅵ群(群よりも式が多く使われる)まで分類されている*52。当地方の後期の土器は、煮沸専用の粗製土器と、貯蔵ないしは特別な行事の際に使われたと思われる精製土器に分かれている。粗製土器では文様も単純な斜縄文が多く、精製土器では土器形式の設定を容易にするような、その土器のみが持つ特徴的な文様を有している。例えば、十腰内第Ⅰ式土器は、主体文様が複数の沈線による入組文等であり、関東地方の堀之内式土器に共通し、十腰内第Ⅱ式は加曽利B1式、十腰内第Ⅲ式は加曽利B2式に類似の文様構成を持ち、縄文の施文されない部分は研磨されるという特徴を有している。十腰内第Ⅳ式土器になると、さきの第Ⅲ式に出現した羽状縄文が盛んに使われ、第Ⅴ式は沈線と斜縄文が主体を占め、器体の各所に瘤(こぶ)のような小突起が付けられる。最後の十腰内第Ⅵ式土器は、三叉状(さんさじょう)入組文を中心とし、上下並びに左右に沈線で区画された斜縄文帯を構成している。器形は、十腰内各形式を通じて深鉢形土器が多くを占め、次いで壺形が多く、鉢形・浅鉢形のほかに第Ⅳ式に筒形を呈する土器も見られる。
 本県の縄文時代後期は特色ある葬法を伴い、特に十腰内第Ⅰ式期にそれが多い。大型の壺形土器の内部から人骨がしばしば発見されているが、土器の大きさから見て遺体をそのまま入れることは不可能であり、洗骨の儀礼を経た二次埋葬、つまり改葬が想定されている*53。また、石を用いた石棺墓、葬法と深い関連を持つと思われる環状列石(ストーン・サークル)や、墓壙・掘立柱建物跡・竪穴住居跡などが、同心円状をはじめ秩序ある配置を示すのもこの時代の特色であろう*54。縄文時代の葬法については後述する。

図9 縄文時代後期の土器(1)
十腰内第Ⅰ式土器…
弘前市・十面沢遺跡(弘前大学蔵)


十腰内第Ⅰ式切断蓋付土器…
六ヶ所村・大石平(1)遺跡(県埋蔵文化財調査センター蔵)


十腰内第Ⅰ式土器…弘前市・十腰内遺跡


十腰内第Ⅲ式鉢形土器…
岩木町・湯ノ沢遺跡


十腰内第Ⅲ式土器…平内町・松野木遺跡
(青森県立郷土館蔵)


図10 縄文時代後期の土器(2)
十腰内第Ⅳ式壺形土器…
弘前市・十面沢遺跡
(東北大学蔵)


十腰内第Ⅴ式香炉形土器…
岩木町・小森山東部遺跡


十腰内第Ⅴ式香炉形土器…
五戸町・上市川遺跡
(青森県立郷土館蔵)


十腰内第Ⅴ式異形土器…弘前市・十面沢遺跡
(青森県立郷土館蔵)


十腰内第Ⅵ式台付鉢形土器…平賀町・石郷遺跡
(弘前大学保管)