石棒は、前期の円筒下層d1式土器期に出現し、中期の円筒上層e式や最花・中の平Ⅲ式土器期には太く短い形状のものが作られ、晩期に入ると、細く長い形態で先端に彫刻を持つ頭が作り出されているものもある。
石剣・石刀は、名称より利器を想像するが、刃物と考えるには程遠く、形態が剣並びに刀に類似することから命名された遺物で、石剣は細く扁平、石刀は反りを持ち、刃に相当する部分は反りの内側に存在する。この両遺物は後期に出現し、晩期並びに一部は弥生時代にかけて作られたものらしい。当該遺物の大半は折れ、断片となって発見される場合が多い。原材は粘板岩が多く使われ、中には溶結凝灰岩などもある。生活用具としての石製品には、今日のまな板のような機能を持つ石皿、クルミやトチの実を潰したり粉を作る磨石、石器を作る際のハンマー的機能を果した敲石、指をかけ握りやすくした凹石(火を起こす際の押え石との説もある)、漁労を行う時の網の錘りないしは編物の錘りとなった石錘、漁の際の浮きなども多数発見されている。原材としては、石皿には安山岩・砂岩・凝灰岩、磨石には安山岩・凝灰岩、敲石には細粒安山岩・流紋岩、石錘にはチャート・頁岩・安山岩・閃緑岩・砂岩、浮きには浮石(軽石)等が用いられている。
岩偶・岩版の両遺物とも、柔らかく加工しやすいシルト岩・砂岩・浮石質凝灰岩などを利用し作られている。人の形を表した岩偶は、前期の円筒下層b式土器期に出現して前期末でいったん絶え、晩期に入ると再出現するが、前期と晩期では形状に相違がある。前期は逆三角形を呈する体部に頭と肩部を突出させ、手は胸に抱く形で表されている。また晩期のものは、頭・手・乳房・足も明瞭な形で表現され、頭部には目・鼻・口などの顔面を構成し、体部には表裏に三叉・渦巻ないしS字状入組の文様が、すべて線刻で表されている。
図14 縄文時代の石器・石製品
石鏃…(前期)天間林村・二ツ森貝塚
(天間林村教育委員会蔵)
石槍…木造町・田小屋野貝塚
(前期)(木造町縄文館蔵)
石匙…尾上町・八幡崎遺跡(晩期)
(尾上町教育委員会蔵)
磨製石斧…弘前市・尾上山遺跡(晩期)
半円状扁平打製石器…
岩崎村・相沢遺跡(前期)
(個人蔵)
石刀…
木造町・亀ヶ岡遺跡(晩期)
(木造町縄文館蔵)
石剣…板柳町・
土井1号遺跡(晩期)
(板柳町教育委員会蔵)
礫石錘…岩崎村・相ノ沢遺跡(前期)
(個人蔵)
図15 縄文時代の石製品各種
石剣・石棒…木造町・亀ヶ岡遺跡(晩期)
(木造町縄文館蔵)
独鈷石…岩木町・湯ノ沢遺跡(後期)
岩偶…深浦町・寅平遺跡(前期)
岩偶…板柳町・土井1号遺跡(晩期)
(工藤泰博氏提供)
岩偶…青森市・熊沢遺跡(前期)
(県埋蔵文化財調査センター蔵)
岩偶…田子町・石亀遺跡(晩期)
(三戸町温故館蔵)
岩偶…
大鰐町・大平遺跡(前期)
(県埋蔵文化財調査センター蔵)
岩版…板柳町・土井1号遺跡(晩期)
(板柳町教育委員会蔵)
岩版…岩木町・薬師1号遺跡(晩期)
装身具には、耳たぶに穿孔して装着する玦状耳飾があり、滑石(かっせき)・碧玉・蛇紋岩などの石材が用いられている。硬玉製大珠(たいしゅ)は、三角形・糸巻き形・楕円形・鰹節形等の形状を示すものが発見されており、特に上北郡六ヶ所村上尾駮(2)遺跡で4個*75、黒石市一ノ渡遺跡で2個*76が同一地点から出土している。後期の十腰内Ⅰ群(式)土器に共伴するものが多く、原材は翡翠(ひすい)とされ、一ノ渡遺跡の例は新潟県の青海(あおみ)ないし小滝産と言われる。小玉類は、臼玉・管玉・丸玉・有孔石製品などがあり、これらは後期の十腰内Ⅰ群(式)土器期に出現し、晩期を経て弥生時代まで製作使用されていたらしい。石材は、硬玉(翡翠)・碧玉のほか、緑色凝灰岩(グリーン・タフ)も用いられている。
図16 縄文時代の装身具各種(石製品・土製品・骨角製品・植物製品)
丹漆塗櫛(歯を欠失)…
尾上町・八幡崎遺跡(晩期)
(尾上町教育委員会蔵)
骨製飾櫛…天間林村・二ッ森貝塚(前期)
(県立郷土館保管)
漆塗櫛(歯を欠失)…
北海道静内町・御殿山遺跡(後期)
(静内町教育委員会蔵)
滑車型耳飾…
弘前市・大森勝山遺跡(晩期)
ボタン状土製品…
弘前市・大森勝山遺跡(晩期)
耳飾…
木造町・亀ヶ岡遺跡(晩期)
(木造町縄文館蔵)
硬玉製垂飾品…
六ヶ所村・上尾駮(2)遺跡(後期)
(県埋蔵文化財調査センター蔵)
勾玉類…
木造町・亀ヶ岡遺跡(晩期)
(青森県立郷土館蔵)
垂飾小玉類…
木造町・亀ヶ岡遺跡(晩期)
(木造町縄文館提供)
青森県で発見される石製品には、上記のほかに仏具の独鈷(とっこ)に類似するためその名が付された独鈷石、おそらく骨角器などを作る際に削り工具として使われたであろう異形石器、半円状扁平打製石器と同時期に出現し、中期初めで姿を消す玦入扁平磨製石器等もある。