これら骨角器は、機能及び用途を中心に見ると、生業を背景とする生産用具(漁労に使われた釣針・銛(もり)など)の漁具、生活必需品としての器具(針・箆など)、装身具(ヘアーピン・飾櫛・耳飾等)などに分けられる。
漁具は、骨角製の銛と簎(やす)並びに角製鏃・尖頭器・釣針がある。本県における骨角製漁具の出現は、貝塚が造営される赤御堂式土器期以後であり、その赤御堂貝塚(八戸市十日市=早期)では銛が*91、同時期の長七谷地貝塚(八戸市市川町=早期)では、組み合わせ釣針やアカエイの尾棘を利用した簎が出土している*92。尾棘簎は、このほかに是川一王寺遺跡(八戸市是川=前期)*93、並びに二ツ森貝塚(上北郡天間林村=前期)*94でも発見されている。先端を鋭く尖らせた尖頭器は、唐貝地貝塚(上北郡六ヶ所村=早期)*95・最花貝塚(むつ市田名部=中期)*96・亀ヶ岡遺跡(西津軽郡木造町=晩期)*97・平虚空蔵貝塚(三戸郡名川町=晩期)*98・大浦貝塚(青森市野内=晩期)*99などで出土している、釣針は前述の長七谷地貝塚・一王寺遺跡・二ツ森・最花・亀ヶ岡・大浦等*100の貝塚のほかに、白座遺跡(三戸郡階上町=前期)*101・三内丸山(Ⅱ)遺跡(青森市三内=前期)*102でも発見されている。これらの漁具製作に使われた原材は、シカの角が多く用いられ、シカ・イノシシの骨も利用されている。
生活必需品的器具としては針がある。針孔の無いものと針孔を有するものとが見られ、前者は編物ないしは刺突具として、針孔を持つものは縫物用であったろう。早期以後の各貝塚で出土している。また骨製箆は、前期のころより出現しており、土器の器面整形並びに文様の施文具等の用具であったと思われる。ほかに、ドウマンチャ貝塚(下北郡大間町=晩期)出土のシカの角を利用した鹿角匕(こっかくひ)、クジラの骨を使った骨斧(同貝塚)なども発見されている*103。
装身具、身を飾るための骨角牙製装身具としては、髪止めあるいは髪飾りであったヘアーピンが赤御堂・長七谷地・白座・平虚空蔵の各遺跡・貝塚から*104、シカの角を利用した竪櫛が一王寺・石神遺跡(西津軽郡森田村=前・中期)*105において、シカの肩甲骨を利用した飾櫛が二ツ森貝塚で出土している*106。なお二ツ森貝塚では、シカの角又部を利用した有孔装身具・猪牙(ちょが)製の牙針・鯨骨製の青竜刀型骨製品(これらは県重宝)*107・骨製ペンダント・動物の犬歯を使った牙玉、ドウマンチャ貝塚では猪牙製腕飾り*108・サメの脊椎骨を利用した耳飾りなどもある*109。なお前述の白座遺跡でも、同様の耳飾りが多数出土している。さらに加えると、半截された猪牙製の垂飾品が、薬師前遺跡(三戸郡倉石村=後期)*110と前ノ沢遺跡(三戸郡名川町=晩期)において、甕棺内から人骨とともに発見されている*111。なお薬師前遺跡では、猪牙製垂飾品に共伴して、遺体の腕に装着した状態のままでベンケイガイ製腕輪(ブレスレット)が14個ほど出土しており*112、二ツ森貝塚においてはアカガイ製、ドウマンチャ貝塚ではベンケイガイとアカガイ製、最花貝塚ではベンケイガイ製の腕輪が見い出されている*113。
図19 縄文時代の骨角器
角鏃・骨箆・釣針未製品ほか…
天間林村・二ツ森貝塚(前期)
(天間林村教育委員会保管)
骨鋸・骨製簎…名川町・虚空蔵貝塚(晩期)
(名久井農業高校蔵)
骨鋸・骨箆ほか…天間林村・二ツ森貝塚(前期)
(左上2点及び右、天間林村教育委員会保管)
エイ尾棘利用簎・骨針…二ツ森貝塚(前期)
骨針…木造町・亀ヶ岡遺跡(晩期)
(木造町縄文館蔵)
釣針…木造町・亀ヶ岡遺跡(晩期)
(木造町縄文館蔵)
骨製銛・垂飾品・針・青竜刀型骨製品…
天間林村・二ツ森貝塚(中期)
(天間林村教育委員会蔵)