(1)貝塚に見る食生活

124 ~ 132 / 649ページ
 貝塚は、堆積している多くの貝殻から、雨水等により溶けて流れ出たカルシウムイオンが、捨てられている食料の残り滓や縄文人が食料とした哺乳動物・鳥類・魚類などの骨・歯・角・牙などに浸透し、それらの物体をしだいに化石化する現象を起こして溶け難い物体へ変えるために、腐食せずに残っているというメリットがある。一方の低湿地・泥炭層遺跡は、動植物などが水中や泥の中に長期にわたり浸っているため、外部から侵入する腐敗バクテリアを防ぎ、いわば缶詰に似たような状態が自然に作り出されていたからであろう。
 本県において貝塚を残した人々が捕食した貝類には、海水性(鹹水性とも書く、貝の大半が含まれる)、汽水性(通常シジミといわれるヤマトシジミの類)、淡水性(カラスガイ・イシガイ・カワシンジュガイ・マシジミ・タニシ等)、陸産(マイマイ・ヒダリマキマイマイ等)がある。その種類は斧足(ふそく)類(二枚貝)で表5に示したように52種(帽子屋敷貝塚でオキアサリが出土しており53種となる)、腹足(ふくそく)類(巻貝)は51種(表6)で、このほかにツノガイ・フジツボの類や、ムラサキウニ・ウニ類などを含めた殼が発見されている。
表5 青森県内遺跡出土の貝類(斧足類)
出土貝類名コベルトフネガイサルボウアカガイタマキガイベンケイガイムラサキインコムラサキイガイイガイエゾイガイサザナミマクラアズマニシキアサザルガイザルガイエゾニシキホタテガイエゾホタテガイイタボガキマガキイワガキスミノエガキカラスガイイシガイカワシンジュガイヤマトシジミマシジミウネナシトマヤガイハマグリ
貝塚・遺跡名
早期帽子屋敷貝塚                     
赤御堂貝塚                    
長七谷地貝塚                  
早稲田貝塚                       
野口貝塚                         
唐貝地貝塚                         
日ヶ久保貝塚                        
天狗森貝塚                      
早・前期湯ノ沢貝塚                      
前期砂ヶ森貝塚                          
白座遺跡                        
寺上遺跡                          
金谷貝塚                          
浮橋貝塚                    
石神遺跡                        
女館貝塚                         
中期林通り貝塚                      
最花貝塚                     
最花D貝塚                     
前・中期一王寺遺跡                         
熊ノ林貝塚                  
松ヶ崎貝塚                         
中志貝塚                        
二ッ森貝塚                 
オセドウ貝塚                         
田小屋野貝塚                      
後期弥栄平(1)遺跡                      
札地貝塚                         
晩期松館貝塚                         
平虚空蔵貝塚                        
金糞平貝塚                          
大浦貝塚                    
ドウマンチャ貝塚                      

出土貝類名チョウセンハマグリオキシジミチクゴシジミカガミガイウチムラサキビノスガイオニアサリアサリコタマガイミルクイウラカガミバカガイシオフキウバガイムラサキガイサビシラトリイソシジミエゾイソシジミシラトリモドキサラガイマテガイヌマコダキガイオオノガイエゾコマガイシラトリガイの類ツノガイフジツボの類
貝塚・遺跡名
早期帽子屋敷貝塚                   
赤御堂貝塚                 
長七谷地貝塚           
早稲田貝塚                     
野口貝塚                       
唐貝地貝塚                       
日ヶ久保貝塚                      
天狗森貝塚                       
早・前期湯ノ沢貝塚                          
前期砂ヶ森貝塚                       
白座遺跡                         
寺上遺跡                          
金谷貝塚                         
浮橋貝塚                        
石神遺跡                           
女館貝塚                       
中期林通り貝塚                       
最花貝塚                       
最花D貝塚                         
前・中期一王寺遺跡                        
熊ノ林貝塚                       
松ヶ崎貝塚                         
中志貝塚                        
二ッ森貝塚                  
オセドウ貝塚                           
田小屋野貝塚                          
後期弥栄平(1)遺跡                       
札地貝塚                        
晩期松館貝塚                           
平虚空蔵貝塚                           
金糞平貝塚                      
大浦貝塚                      
ドウマンチャ貝塚                         

表6 青森県内遺跡出土の貝類(腹足類)
出土・貝類名トコブシクロアワビアワビ類エゾアワビサルアワビヨメガカサカモガイカサガイユキノカサコシダカガンガラクボガイイシダタミバテイライボキサゴキサゴサザエ類スガイサンショウガイタマキビエゾタマキビオオヘビガイカワニナウミニナイボウミニナヘナタリホソウミニナエゾタマガイ
貝塚・遺跡名
早期帽子屋敷貝塚                         
赤御堂貝塚                    
長七谷地貝塚                     
早稲田貝塚                         
野口貝塚                         
唐貝地貝塚                           
天狗森貝塚                          
早・前期湯ノ沢貝塚                          
前期白座遺跡                     
寺上遺跡                          
浮橋貝塚                          
石神遺跡                          
女館貝塚                           
中期林通り貝塚                        
最花貝塚                           
最花D貝塚                          
前・中期一王寺遺跡                          
熊ノ林貝塚                      
中志貝塚                           
二ッ森貝塚                        
田小屋野貝塚                         
後期弥栄平(1)遺跡                         
札地貝塚                       
晩期平虚空蔵貝塚                          
大浦貝塚                 
ドウマンチャ貝塚                

出土・貝類名ツメタガイエゾヤツメタカズラガイヤッシロガイイボニシレイシアカニシオオヨウラクサンゴヤドリエゾチヂミボラナガチヂミボラヒレガイバイミガキボラヒメエゾボラエゾボラオオヒタチオビトカシオリイレコロモガイオオギセルマイマイヒダリマキマイセイソバモチガイタニシウニムラサキウニ
貝塚・遺跡名
早期帽子屋敷貝塚                         
赤御堂貝塚                       
長七谷地貝塚                     
早稲田貝塚                         
野口貝塚                          
唐貝地貝塚                         
天狗森貝塚                          
早・前期湯ノ沢貝塚                         
前期白座遺跡                     
寺上遺跡                         
浮橋貝塚                   
石神遺跡                         
女館貝塚                       
中期林通り貝塚                      
最花貝塚                       
最花D貝塚                        
前・中期一王寺遺跡                       
熊ノ林貝塚                   
中志貝塚                         
二ッ森貝塚                     
田小屋野貝塚                          
後期弥栄平(1)遺跡                        
札地貝塚                     
晩期平虚空蔵貝塚                         
大浦貝塚                      
ドウマンチャ貝塚                      

 魚類は、骨のような硬組織から鱗の類を含めて35種(表7)にのぼり、哺乳類では、陸棲・海棲を含めて27種(表8)、鳥類は15種(表9)である。
表7 青森県内遺跡出土の魚類骨
貝塚・遺跡名早期前期中期前・中期後期晩期
出土魚類名帽子屋敷貝塚赤御堂貝塚長七谷地貝塚早稲田貝塚野口貝塚白座遺跡女館貝塚林通り貝塚最花貝塚最花D貝塚一王寺遺跡熊ノ林貝塚二ッ森貝塚中の平遺跡札地貝塚平虚空蔵貝塚ドウマンチャ貝塚亀ヶ岡遺跡
ネズミザメ
ツノザメ
オナガザメ
ホシザメ
サメ類
ガンギエイ
エイ(アカエイ)
イワシ(マイワシ)
ニシン
サケ(含サケ科)
ウグイ
ウナギ
ダツ
ボラ
カツオ
カマス
サバ(マサバ)
マグロ
ブリ
スズキ
タイ(マダイ)
クロダイ
アマダイ
イサギ
カワハギ
ヒガンフグ
フグ(含トラフグ)
メバル
エゾメバル
カサゴ
アイナメ
ホッケ
コチ
ヒラメ
カレイ類

表8 青森県内遺跡出土の哺乳類骨
貝塚・遺跡名早期前期中期前・中期後期晩期
出土哺乳類名赤御堂貝塚長七谷地貝塚早稲田貝塚野口貝塚白座遺跡女館貝塚林通り貝塚最花貝塚最花D貝塚一王寺遺跡熊ノ林貝塚二ッ森貝塚中の平遺跡オセドウ貝塚田小屋野貝塚札地貝塚平虚空蔵貝塚ドウマンチャ貝塚亀ヶ岡遺跡
サル
ノウサギ
エチゴノウサギ
リス
ムササビ
アカネズミ
カヤネズミ
ツキノワグマ
イヌ
オオカミ
タヌキ
キツネ
テン
イタチ
ネコ科
アナグマ
カワウソ
アシカ
トド
オットセイ
アザラシ
クジラ類
イルカ
イノシシ
シカ(ニホンジカ)
カモシカ
ウマ

表9 青森県内遺跡出土の鳥類骨
貝塚・遺跡名早期前期前・中期中期後期晩期
出土鳥類名赤御堂貝塚長七谷地貝塚白座遺跡二ッ森貝塚オセドウ貝塚最花貝塚最花D貝塚札地貝塚ドウマンチャ貝塚亀ヶ岡遺跡
ヒメウ
ウ類(含ウミウ)
アホウドリ
カモ類
マガン
ワシ・タカ類
カモメ
キジ・ヤマドリ
カラス
ツル
サギ
カイツブリ
ミズナギドリ
オオハム
ハクチョウ

 これら主に貝塚などから発見される硬組織の遺物を見ると、例えば貝類では、海水性のものは砂泥の海に棲息する貝なのか、あるいは岩礁の海を好むものかによって、貝を捕えた当時の海辺の環境を知ることができるし、また塩分の濃い場所なのか、河口に近いため川水が流入するような塩分の薄い場所なのか、などの問題も縄文人の食生活を知る上で重要であろう。
 魚類にしても沿岸魚か回遊魚か、暖流あるいは寒流種かの問題、鳥類では季節的に渡り鳥か否かなども、縄文人の食生活並びに活動の面からも無視できない。哺乳類にしても同様のことが言えるであろう。
 さらに、捕食したこれらのものに対するカロリー面まで調べて見れば、貝塚を残した人々の栄養状態まで考察することもできよう。同様のことは、低湿地や泥炭層遺跡でも言える。特にこれらの遺跡は、骨歯角牙(こっしかくが)のような硬組織のみならず、軟質の植物質の遺物も多く残している。
 他県の例を引用すると、縄文時代前期前葉に属する福井県三方郡三方町の鳥浜貝塚(貝塚を伴う低湿地遺跡)では、植物堅果種子(けんかしゅし)類が37種出土し、その中に、食用となるカヤ・クルミ・スダジイ・オニハス・リョクトウ・ムクロジ・ブドウ・マタタビ・ヒシ・ヤマボウシ・シソなどのほかヒョウタンも発見されており*114、至近の例では青森市三内丸山遺跡において、前期の円筒下層aないしb式土器を包含する土層から、クルミ・トチ・ヤマブドウ・クリ・コナラ(ドングリ)・キイチゴなどの食用となる堅果種子も出土している。特に、ヤマブドウや食用に向かないニワトコ・サルナシなどもあって、これらを原料に酒を醸造していた可能性も考えられよう*115
 縄文時代晩期になると、木造町の亀ヶ岡遺跡では、種子・毬果(きゅうか)・木材など17種が発見され、花粉分析によると20種の樹木・15種の草類が検出されている*116
 これらの中で食用となるものは、オニグルミ・トチ・ブナ・スモモ・モモ・ハイイヌガヤ・ナラ・クリ・アケビ・タラノキなどの堅果や、種子・木芽であり、草木ではソバ・ヨモギ・セリ・ハコベ等である。八戸市是川中居遺跡では、15種の堅果・種子・木材の中で、クリ・トチ・クルミ・ブドウ・アケビの5種が食用となり*117、南津軽郡平賀町の石郷遺跡では、出土した6種の植物性遺物の中でブナ・トチ・オニグルミなどの実が食用になろう*118。このほかにも、加工の仕方により食用となるものも存在すると思われる。