四 板碑の様式と石質

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 津軽地方の板碑は、関東地方の板碑と違って自然石を利用しており、緑泥片岩を使用した関東地方の板碑に比べるとかなり印象を異にする。

緑泥片岩を利用した日高市四本松の板碑

 しかし碑面には、関東地方の板碑に似せるために郭線に工夫を凝らし、月輪・蓮座・花瓶・香炉を刻むなど、板碑としての特徴は備えている。またその特徴は、津軽地方の内陸部と海岸部、時代の違いなどにより差が見られる。
 石質については、安山岩が圧倒的に多いほか、石英安山岩・流紋岩・溶結凝灰岩などが用いられている。大鰐町周辺の板碑は、宿川原~大鰐間の鶴ヶ鼻から産する石英安山岩が利用され、分布範囲は平川下流部の弘前市外崎(とのさき)、田舎館村大袋・二津屋方面にまで及んでいる。岩木山の周辺の板碑は、岩木町兼平や弘前市大森に見られる輝石安山岩に類似した石質である。
 深浦町では、流紋岩を使用した板碑が見られ、町並みの裏手には同質の岩石層が露出している。板碑の場合、遠くから船で運ばれて奉納された石造遺物と考えるより、現地で必要な時に造ったと見る方が適切である。
 なお、板碑の高さは、弘前市中別所の弘安十年(一二八七)八月の板碑が二・六メートルあり、津軽地方最高である。この板碑の付近には、一・五メートルを超えるものがあり、中別所に近い細越の愛宕神社に移された板碑も大型である。大鰐町三ッ目内の板碑群の中にも、比較的大型の碑が含まれている。一律には言えないが、一二〇〇年代末期から一三〇〇年代の早い時期には大型の板碑が造立されたのに対し、時代が下ると小型化する傾向がある。このことは、庶民に板碑の信仰が及んだことを示すものかもしれない。