ここに、『新編弘前市史』資料編2(近世編1)を刊行する。
本編では、昭和三十八年(一九六三)に刊行した『弘前市史』藩政編に多くを学びつつ、『新編弘前市史』資料編1に続き、天正十七年(一五八九)からおおむね十八世紀後半、宝暦改革期に至る津軽領を中心とした資料を編纂・収録した。収載した内容は、第一章、藩政成立への道、第二章、藩政の確立、第三章、藩政の展開と思想、第四章、産業と海運の発達、第五章、藩政時代の町と村、である。第一章のみは、編年体の構成としたが、第二章以下は、資料を整理・分類して節・項に分け、各々標題を付して利用に便宜を図った。
さて本編は、次のような構想と編纂方針をもって編集した。本市史の近世に関する資料編は、二巻をもって構成することが決定しており、したがって本編は、近世初期から幕藩体制の後期に入る十八世紀後半までを取り扱うこととし、時系列による領内支配の政治的な推移と動向を押さえ、一方では時間軸では捉えきれない、藩政時代における町・村の状況や、諸産業の発達のあり方が明確になるように資料を配列した。収載した資料は、弘前市立図書館、国立史料館などの各所蔵機関だけでなく、県内外の多くの機関、個人の方々からご協力を得て、広く調査・収集した成果を収めさせていただいた。
また本編では、右に述べた事情により紙幅の制約から網羅主義を採用できず、政治動向では、初期藩体制の成立、四代藩主津軽信政の寛文(かんぶん)・貞享(じょうきょう)から元禄期に至る政治の展開、宝暦改革の実施等に重点を置いた編集となった。産業の発達では、交通・海運・鉱山等に主力をおいたため、他の業種への言及が少なかったことは否めない。但し、その中でも、廻米(かいまい)の展開による全国市場への参加、ついで家中払米(かちゅうはらいまい)等を通じた蝦夷地(えぞち)との交流など、人・もの等のフローの部分に焦点を当てて、動態的な事象の把握にも努めた。
収録した新資料の中には、次のような特に注目されるものがある。第一章の編年体資料には、西本願寺原蔵の西洞院時慶卿記(にしのとういんときよしきょうき)紙背文書に見える津軽家の文書類等を初めて掲げて参考に供し、第二章では、全国的にも極めて珍しい、徳川将軍家から津軽家へ発給された領知朱印状(りょうちしゅいんじょう)並びに領知目録の原本を口絵にも掲載した。第三章では、京都府陽明(ようめい)文庫で採訪した、津軽家と近衛家との関係を伺う上で貴重な文書史料を、ついで宝暦改革の主導者である乳井貢(にゅういみつぎ)の著作を掲げて、政治と思想の両面から藩政の実像を立体的に構成できるように配慮した。また付録として、弘前城下、青森湊町、鯵ヶ沢湊町、十三湊町、深浦湊町、藤崎(ふじさき)村、岩舘(いわだて)村の、十七世紀前半から後期にかけての町と村の絵図を製版して活用できるようにした。詳しくは、各章の巻頭に掲げた解説を参照されたい。
なお当該の時期における民衆の生活実態については、周知のごとく資料的な制約があって明確にしえない部分が多く、これらの課題は次巻に予定している後期藩政の動向のなかで触れてゆくことにする。
本編では可能な限りビジュアルな編集を心がけたが、資料編という性格上、かなわぬことも多かった。市民の皆さまのご寛恕を願うのみであるが、本編の編纂に対する我々の意図をお汲み取りいただければ幸いである。