『志学幼弁』十巻

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 宝暦十四年の自序を持つ。乳井の蟄居中の著述。一貫した姿勢をもって宝暦改革を推進していった乳井の思想的精神的基盤がよく窺える作品である。と同時に、宝暦改革を頓挫せしめられた無念さが、行間のここかしこから伝わってくる。乳井の思想がまとまって述べられており、乳井の代表的著作と言ってよい。「幼学」の人をして「惑いに入れしめざらんことを欲して」著された。大部の著述であるため、全巻を収録することができなかった。全容を知る上での参考のため全巻の小見出しを紹介しておく。
 巻一「君臣、忠孝、道法、性命、中庸」
 巻二「名実、事理、公私、仁義、見識」
 巻三「自然、成敗、時宜、善悪、勇怯」
 巻四「金気、法令、武芸」
 巻五「節用、数道」
 巻六「常変、賞罰」
 巻七「迷悟」
 巻八「治道、諫言」
 巻九「曲直、無為、雑問」
 巻十「礼楽」
 『志学幼弁』は極めて思想性に富んだ、日本思想史上、刮目に値する著作であり、全巻収録が望ましいが、紙幅の制約から巻三、巻九、巻十を収録した。巻三、巻十とも乳井の思想の特色がよく出ている部分である。巻九の「雑問」中の豊臣秀吉の朝鮮出兵と赤穂四十七士への糾弾は痛烈であり、乳井の真骨頂が遺憾無く発揮されている。