はじめに

近世部会長 長谷川成一



 ここに、『新編弘前市史』資料編3(近世編2)を刊行する。
 本巻では、『新編弘前市史』資料編2(近世編1)に続き、十八世紀中葉の宝暦期から明治四年(一八七一)の廃藩置県に至る、弘前市を中心とした津軽領に関わる資料を主に編纂収録した。収載内容は、第六章、幕藩体制の動揺と民衆、第七章、藩政期の人々の生活と文化、第八章、藩政期の宗教と信仰、第九章、維新と藩体制の崩壊である。所収の資料は内容によって分類し、節項に分けて表題を付して利用に便宜を図った。なお本巻を第六章から開始したのは、近世編が全部で九章から構成されていて、先年刊行した近世編1が第五章までを収録し、近世編2はそれに接続することから、第六章から出発するという章立てとなった。この点をご理解いただきたい。
 さて本巻は、次のような構想と編纂方針をもって編纂した。本市史の近世に関する資料編は、二巻をもって構成することが決定しており、したがって本巻は、幕藩体制後期から幕末維新期までを取り扱い、政治面では、津軽領内における支配の推移と、十八世紀後半、帝政ロシアの南下によって、北方からの危機に揺れる藩政の動向を押さえた。その上で、時間軸では捉えきれない、藩政時代における町・村の人々の生活や生業、年中行事、信仰など、民衆の日々の暮らしのあり方が明確になるように編集した。収載した各資料は、弘前市立図書館、国文学研究資料館史料館などの公的機関だけでなく、県内外の個人所蔵のものなど、多くの方々からご協力を得て、広く収集した成果を収めさせていただいた。
 周知のように、近世後期に入ると民衆の動向を伺うことのできる資料が、前期とは比較にならぬほど増えてくる。そこで本巻では、このような資料の残存状況に鑑み、主として民衆に視座を据えた編集を心掛けたつもりである。具体的には、幕藩体制後期の政治情勢に対する、民衆のさまざまな対応や、一揆・打ちこわしをはじめとする抵抗の諸相を記した資料を配列した。また主に第七章と第八章において、十八世紀後半から十九世紀にかけての弘前城下を含めた津軽領における武家、町人、百姓農民など、人々の日々の生活を明らかにする資料を可能な限り掲載した。さらに藩政時代の宗教・信仰、学芸、工芸、建築関係資料を本巻に掲載したが、近世編1ではこれらの分野について触れられなかったので、近世後期の資料のみでなく前期の資料も収録したことをご了解いただきたい。
 幕末維新の変革期については、開港期からの激変する政治情勢に藩体制がいかにして対処していったのか、その動向を綿密に明らかにすることを重点にした編集とし、加えて世直しを求める民衆の動きを示す資料も提示した。
 付録として、カラーの弘前城本丸御殿絵図(寛文十三年)と津軽和徳町周辺絵図、モノクロのエサシ調練の図、神田上屋敷御絵図(延宝六年)、本所御上屋敷惣御絵図(元禄期以前)をコロタイプ版に製版して収録した。
 なお本巻では可能な限りビジュアルな編集を心がけた。具体的には、藩政後期の民衆を生き生きと描いた「津軽風俗画巻」や「忍ぶ草」(蝦夷地警備の武士を描いた絵巻)を口絵に、また本文には「奥民図彙」「弘藩明治一統誌」など、当時の武家・百姓・町人の風俗を活写した資料を掲載して、津軽地方の都市と農村の民衆の姿を目で見て楽しく理解できるように編集した。このような貴重な資料を本巻に掲載することをご快諾下さった、市民の皆さまをはじめとする多くの方々の厚いご協力に感謝したい。