庵日記

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 元禄元辰三月四日山下の茅屋に初て[草亭に移る(取り消し線)]
 住す
    水にあかす林をねかふも魚鳥の
    心にあらされは其味[ひ(取り消し線)]を
                   しらす
 〇我家のかたしけなくも花見哉
    十一日[の宵(取り消し線)]芭蕉翁を宿する夜
 〇おもしろうまつ笠燃よ朧月
 [猿蓑ニ入/薄月夜と有(頭注)]
    友田氏李丸士[李丸士(取り消し線)]の方より消息して深川
    の初雪の吟聞え侍るやいかゝ
  

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 [長田の社の花を/眼のやうに椿咲出す射手の社(頭注)]
     それて問はゝやなと聞えて
    思ふと[書て其はしに(取り消し線)]
          句あり        [李丸(取り消し線)]
       〇菜たね見むかの初雪のなつかしく
     其返しに必待と書て
             申遣す
  〇黄昏を見せはやなたね散ぬうち
                     [李丸(取り消し線)]
     その後半[茅屋に一(取り消し線)]日談話す[して客(取り消し線)]あ
     るしにかはりてとかゝれて客の云り
                    [李丸(取り消し線)]
       〇牛つなく我軒かさん春の草
 [又/[良品士(取り消し線)]両吟の時予/ほ句せよとありて/〇あふなしや鳴すハ落む夕雲雀(頭注)]
 [一紙を給ふて(取り消し線)]
     蕉翁面壁の画図一紙ふところより
          この もの
     取出て是を庵の[あるし(取り消し線)]にせはやと
         るハ
     夜すから書給ふと也その讃に〇[みのむ(取り消し線)]
     [しの(取り消し線)][〇みのむしの(傍注)]音を聞にこよくさの庵 はせを[と有(取り消し線)]
     則[予(取り消し線)]おしいたゝきて則初五の文字を摘て
     [初五の詞をひろひて蓑虫庵と(取り消し線)]
     蓑虫庵と号すへしと云へはよろしと也
     [庵号すへしと云はよろしかるへき(取り消し線)]
     [のよし聞え侍る(取り消し線)]
 [[おしいたゝきて(取り消し線)]/[則初の五文字を(取り消し線)]/[ひろひてさちう(取り消し線)]/[庵とすへしと云ハ(取り消し線)]/[よろしと也(取り消し線)](頭注)]
     その画に[図(取り消し線)]題す
       [いて(取り消し線)]
  〇そちむくはとこの桜の夕暮そ
     師の云いま熱田にある
     盤斎自画自讃に
      〇世の中を後になしてやま里に
        背きはてゝやすみ染のそて
     を見て翁も句ありと[なと(取り消し線)]此序語りなと
     是[いまに熱田にあり是を見て(取り消し線)]
          に  め
     したひしを爰とゝむ記す其句に

  

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                  [翁(取り消し線)]
     〇団扇もてあふかん人の後向
    [と翁も句あり此面壁にたよりあり(取り消し線)]
     [語り(取り消し線)]     に
    [と云ひ給ふをこゝとゝめ侍る(取り消し線)]
    [の事を(取り消し線)]     [老人(取り消し線)]
    [此絵を予愛するよし(取り消し線)] 〇ある禅門[の(取り消し線)]
                [やうのもの(取り消し線)]
    [聞侍て(取り消し線)]小きふた皿に煮まめしたし
    めて送るにその器のはしに 〇[達磨(取り消し線)]
    〇達磨尊霞伴ふ窓のまめ[尊霞伴ふ窓のまめと書てその(取り消し線)]
    老人の深切と感してとゝむ[こゝろさしを述ふ殊勝の事也(取り消し線)]
    翁万菊吉野に出られし時餞別す
     [翁万菊よし野餞別(取り消し線)]
      さはることありて二日三日旅立打のひけれハ
 〇見あはせて遅かる花も一くらゐ
      花も
    李丸子 [と(傍注)]両吟の時
  [あふなし(取り消し線)]や鳴すは落む夕雲雀
    長田[射手(取り消し線)]の社の[に(取り消し線)]椿を[をたつねて(取り消し線)]
  眼のやう椿咲出す射手の社
  [花のいろ森の椿やかしの中(取り消し線)]
 [両句共に前へ出す(頭注)]
 辰の夏の部
    大和の国尼の御寺まうて[にて(取り消し線)]
  牡丹破れて三分くらし宵月夜
  [おのこ眼にあふなき(取り消し線)]芥子の茂哉
 [此の夏へ入し(頭注)]
  うき世にはものうき[けしの花咲や余多の比工尼寺(取り消し線)]
    傾女[遊女(取り消し線)]の絵に
 〇うちくへて[燃はとて(取り消し線)] 袖に燃つく[うちくへる(取り消し線)]牡丹哉
        庭や態めかすにみたれ[畠庭の(取り消し線)]花
 〇[かれふはと(取り消し線)]夏草[咲や蕗の中(取り消し線)]
  

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     風狂人に訪る[れて(取り消し線)]
   [半か朝かほの朝ね昼顔の昼ね(取り消し線)]
   [はもとよりにして(取り消し線)]蚊もたゝの
   宵寝し[まとひ(取り消し線)]月をさへ見ぬわか
   戸[を(挿入)]ならすは誰そ
 〇口なしと蚊屋つり[り(取り消し線)]ふさく庵[る草の鎖(取り消し線)]哉
        田家
    長者屋敷に行て 二句
       [にそ半へ(取り消し線)]
    のめやらとゝやら 子か
 〇やま鳥と[平にわらへ(取り消し線)]田うへ蓑

 〇百合に咲け撫子にさけ[林の中の(取り消し線)]田子か歌
 [野収色紙(頭注)]
  夕立の或寺に行て[競ひや寺の(取り消し線)]昼から田
     さはき止ぬや
 [次の年に入(頭注)]
 〇蓮咲て三寸ひくし水の影
    この句はり丸芦風蓮を題す時
    の吟也二句の蓮は略す
   芹家久しく音信に[もなく(取り消し線)]絶て後
   文通に           [芹家(取り消し線)]
    〇蚊の中にひとりあるかよ夏暮
   其返し
 〇さひしくは見せむ裸のかやり焼
 [秋の部へ置直す(取り消し線)]
 午の秋   朝かほ
  [おくれしと木槿の花の乱咲(取り消し線)]
 [有磯ニ入(頭注)]
   このころの思はるゝ哉稲の秋
  

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 [猿蓑ニ入(頭注)]
  [よいころに枝ふみ付て尾長鳥(取り消し線)]
    いせの国久居にまかりけるに戸
    木といふ所にさしいり夕かほふか
    き井に水くむ小女ありしはし
    こなたの方を見こしてその気
    しきもの云へき風情してあや
    またす云出ぬあはやと思ひ侍
    れはわか後の方よりけうかるお
    の子のこゑして答けるしはらく
    おかしき事に思ひ侍りてひとりことの余申捨ぬ[侍る(取り消し線)][ともに侍る(取り消し線)]
 〇[夕かほに(取り消し線)]垣[を(挿入)]して夕貌へたつ[しのふ(取り消し線)]扇かな
 [秋の部(頭注)]
    十五夜いせ浦の月見むと思ひ
    侍る夜雨いとふりつれ/\に旅泊す
 〇名月に何そふるまへ浦のもの
    田
   岩の橋をわたるに侍の子十はかり
         さま
   なるものその得かほに釣たれて
   かしこく見え侍る
 [たん尺へ/は庵(頭注)]
 〇腰のものねち廻しけりはせ釣子
 〇よい比に枝ふみ付て尾長鳥
 [猿蓑ニ入(頭注)]
 〇此比の思はるゝかないねの秋
 辰の冬の部
            [笠の(取り消し線)] し
 〇初しくれ笠は[笠は(取り消し線)]あまりに新[き(取り消し線)]

    此冬か雪芝疹
 〇火燵よりおろして[せは(取り消し線)]ひくし膳のあし
 〇棹鹿のかさなり臥る枯野哉
   奈にて
  

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 [猿蓑ニ(頭注)]
    途
  [わひしさや立くらみしてたひの紐(取り消し線)]
 [次ノ冬ニ入(頭注)]
    此冬か我峯か妹むかへしに
  〇千代かけて[忘れしと(取り消し線)]結ひあはせよ閨のたひ
  此あたり袴なし也年のくれ
    此句は山下え庵をしめてはしめ
    てのとしのくれ珍しき住居に近所
    隣家を思ひての句也
 
 元禄二巳とし
 〇音なしに雑煮になしぬ草の庵