横日記

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 草庵初に送らるゝ
 発句とも元禄元辰春
  はるの雪山見る窓か草の庵     蛙洞
  春雨にみのむし重き柳かな     酔猿
  外は侘て起ふし花のいほり哉    梨雪
  みのむしや世話に隠るゝ花の庵   卓袋
  蘭の香と見るやなたねの花の庵   梅額
    さはる事ありて久しく
    まかることなく言遣す
  舞まふて花園をみん燕哉      半残
  ほそく立煙見事に春の月      兆卜
  
[小川氏/雷洞/夕陽照テ戸ヲ煙霞隣ル/炊ク粟水瓶燕雀馴ル
上有山窓竹下リ/□□□□□□米裸裎ノ人(欄外注記)]
  

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  東風ふくや誰やら明る枝折門    芹家
  雉子も子を連て来て鳴く窓の前   買山
  花見餅鼠飢たり草の庵       芋翠
  かつかうのかつかうと鳴春の庵   雷洞
  ひとり別春の空見る庵かな     風麦
  人長閑冠とかぬ庵かな        同
  鼠とも春の夜あれよ花靭      半残
   家のまはり蛙多きよしを聞て言遣す
  蛙子やよきこゑあらん腕まくら    同
  
 或夜翁ありてきこととも云出て此国の
 うにめつらしと杉原取て
   伊陽山家にうにといふ物有つちのそ
   こよりほり出て薪とす石にもあら
   す木にもあらす墨色にしてあしき
   香ありそのかみ高梨やゝ是をかゝ
   なへて曰本草に石炭と云物侍るい
   かに云伝へてこのくにゝのみ焼なら
   はしけんいと珍し
  かにゝほへうにほる岡の梅の花    翁
 此一紙我草庵に残る
  

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 庵月次初会一順
   翁のうにほる岡を見て
  うにの香に簾かゝけよ春の雪    酔猿
  すゝめ巣立の落る軒下       和声
  若草によこれ大口ふみ込て     芦馬
  よろひ一領あらふ百性       り丸
  岩間より舟押出す宵の月      雷洞
  碪の音のかたきわら家       靏水
  顔くろき女薄に見透して       筆
  投行の逢し衣/\        蕉雪
  
 り丸子と両吟
  あふなしや鳴すは落ん夕雲雀    芦馬
  野は行/\て柳ある家       り丸
  唐弓をまた里寒く打ぬらん      同
  瓦灯のかけに起る旅人        馬
  朝月は蚊の声よはる秋の風      丸
  萩折戻る槙の戸の中         馬
  若僧に此笠かさん松の露       丸
  眉根あらはに被かきあけ       馬
  

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  夜は明て声高になる私言       丸
  舟から舟にかよふ手枕        馬
  松明に名所を見たる五月闇      丸
  雨ほろ/\と天神の森        同
  見る人の袖かきあはす鷹の孔     馬
  かゝしか顔の前かうしろ歟      同
  月影に鍬あらひやる水の音      丸
  首崩れ雨露のしら/\        馬
  
  花の山日も猿を聞にけり      丸
  母とわらひを手折る傾城       馬
  春風に男の髪の寝乱れて       丸
  時々音す琵琶の雨漏         馬
  朝ほらけ行燈に残る針の跡      丸
  乳を貰ひに出し賤の夫        馬
  程遠く還御の比の京の町       丸
  鷺に別るる神鳴の雲         馬
  色青き岩ひは堀て袖涼し       丸
  

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  月まつ貌につほむさゝ百合      馬
  竹椽にこそ/\蟹のつなかれて    丸
  髪すいて居る窓の人影        馬
  東雲のしとろに君か立烏帽子     同
  琴行跡のゆかし山茶花        丸
  霰聞扇さし出す玉簾         馬
  粥のむ音の仕たる乗懸        丸
  海士の子か釣たる浪の閑也      馬
  山の朧に日の蝕を見る        丸
  
  浴室の花に帽子の別来て       馬
  河まて帰る楼門の雁         丸
  
   其次
  紅梅に箒提たり寺の門       り丸
  下駄ふみ交るきしの足跡      芦馬
  春の野に嘶あはす馬見えて      同
  はな紙おとす橋の中程        丸
  三味線の糸取に行初月夜       馬
  

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  片側は碪うちやむ          丸
  秋風に葬礼待もあはれ也       馬
  雨つゝく日の妹と酒のむ       丸
  夕貌に蚊屋はつしさす長枕      馬
  灯挑に又書る宇都のや        同
  ひか/\と古郷に光るすはる星    丸
  舟打ひゝき浪寒きかな        馬
  わか庵は鯨のほねを柱とし      丸
  道半来て見えぬ三ケ月        同
  
  露はらりめし替られし狩衣      馬
  霧立池を蓋ふ松の葉         丸
  散花の破風ぬく梢かなしくて     馬
  永日南の背中ほこ/\        丸
  とまり居る鬘の蝶の重からす     同
  翠簾の目かそふうきことの数     馬
  釣夜着に痩たる父のを見る     丸
  鐘のうちなる大としの空       馬
  ふり積る雪に崩れし炭俵       丸