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序
智周禅尼ハ友田良品室女にして
小川風麦女なり其志を続て万に
かしこく風雅の道すら他に越たり
其父其夫ともに蕉翁の門下にして
殊に睦しく名つけて松風と呼れぬ
一とせ洛西野風といへる妓女に深く
ちなみうへのきぬなと互に脱かへ松に
音するならひありとハと戯て梢風と
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更られ梢ハ松にもあれハ翁も許し
給んかしと人にもかたりぬおきな帰郷の
をり/\ハ此かりにあしをやすめ起臥の
助にも松風を杖とし例の褐染の右
をゆきみしかにこのみて誹諧袖と笑
れぬとや此集にみえたり今ハたのまれ
し人さへ
消行や袷縫ふ手の所縁まて
卯のはな衣を旅のはれ着として齢ハ
俊成の卿にもをとらすなんおきなの
ゆかり此道のまめ人の歎をおもひ洞秋
未塵のともから尼のつと/\書置る
木の葉といへる艸子翁のかいやりし物
反故やうの中の句ゝ孫なる其端か
耳にのこれるもましへて一集となし
予に序を乞余もおきなを見知りぬ
道ハ晋子土芳か等にもきゝ見
つれともまことや牛の尾を算る
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にもたらて辞するもをこかましく
又梢風かよしみも黙しかたくて
只かし鳥の口まねにみしかき
筆をとるものならし
時惟宝暦八皐月
再形庵
七十六翁
白舌馬老人
又ひたりかきに
ふる雨のなみたとならハと
篁のよまれしもさること
にて渡り川の注を四度に
およひしに
帰り来ぬ
もの歟卯月の泪雨
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源氏雲かくれの桜人に仏もねはん
の雲にかくれたもふといふ事ハ唯
人の世のさまをゝしゑたもふなる
もとより生死の海底ふかく妄念
の波たかくあかるもおもへハ夢の
間そかし品位も終にはたのもしけ
なく後の世にもこゝろを翻し
誠の道を悟るこそ二世の友とハ
ならめとしめしたまひて
もとよりもむまれさりせは今
も又たつねて帰る古郷も
なし我心もおもしろきことゝ
おもひつゝけて外に辞世も
なくかくもやと
三月日 梢風
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故郷へハにしきの
かはり花
ころ
も
媼年九十其当疾畢以是
巻記我二人曰予死之後
若有意於一哀請選于此
以表一句幸使同学之士
知吾終身不負於所学也
先是使未塵写真時年八
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十八矣今為鋟木因書其
遺意以附于此焉
著者 鑑竹亭洞秋
白鳥山人未塵